「が、がっこうっ……」
「学校?」
「学校、ほんとうに通えるんだよね?」
「やだなあ。どうしちゃったの、あーちゃん。なにかあった?」
 くすくす笑うの目の前のみーちゃんが、ものすごく遠く離れた国の人に見えた。みーちゃんがシャワーを浴びているあいだに、見様見真似で触ったスマートフォン。電話の履歴には「再配達受付センター」と登録された番号しかなかった。
 変わらないどころか、ひどくなっていく隣の部屋の騒音。もうすぐ夏も終わるというのに制服も教科書も鞄も、なにひとつ用意されていない現状。
 みーちゃんは、なにを考えてるの?
「信じていいんだよね……」
「あーちゃんってば、ほんとうにどうしちゃったの?」
 みーちゃんは心からおかしそうに笑って、左手の親指の爪をガリッと噛んだ。深爪が、ますます削れていく。
「とにかく電話はしたし、学校だって通えるから。ほら、焼きそば食べようよ。せっかくあーちゃんがつくってくれたのに、さめちゃうよ?」
「と、隣の猫。大きな、傷があったの。血が、ぽたぽた垂れるくらいの、大きな大きな傷が」