「ストレスを抱えた鶏が卵を産むと、こうなることがあるんだって。これくらいの大きさなら加熱すれば食べてもだいじょうぶだよ」
「ストレス……」
「大きな音にびっくりするとかね、そういうストレスが鶏にもあるんだって。そうすると毛細血管に傷がついてこうなるみたい」
 内側からの、血。それだって、外側から与えられたものによって流した血であることには変わりない。ぶちぶちと傷つく、細く赤い血の管を瞼に描くと、ふたたび胃が捻じれた。
 私が鶏だったら、いまどれくらいの毛細血管に傷がついているだろう。
「どうしたの、あーちゃん。気になるなら私がそっち食べるよ」
「ううん、だいじょうぶ。食べれるよ」
 そう言って断ったけれど、みーちゃんは血卵の目玉焼きののった焼きそばを自分の席へ運んだ。焼きそばからは白い湯気がふんわり立ち昇って、部屋はソースの甘ったるい匂いでひたひたになった。
「うん、おいしい。焼きそばって、夏って感じがする」
「夏以外は食べないの?」
「そうじゃないけど、なんとなくね。焼きそば好きだし、秋になっても食べたいよ」
 秋になったら――。秋になったら、ほんとうに学校に通っているだろうか。溶け切らなかった粉末ソースのかたまりが、舌のうえでざらりとほどけてこびりつく。