「今夜は焼きそば?」
 シャワーを浴びたみーちゃんが訊いた。
「なんで当てちゃうの!」
「ソースの匂いでわかるよ」
 みーちゃんがくすくす笑うから、いっしょに笑った。そんな場合じゃないのに。
「目玉焼き焼くから、みーちゃんは座ってて」
 みーちゃんは子どもみたいに「はあーい」と返事をしてキッチンを離れた。
 あつあつのフライパンに玉子を落とすと、じゅわっと外側から白く縁どられていった。
黄味になにか赤いものが混ざってる。なんだろう、と顔を近づけてみると、胃が捩れるように悲鳴をあげた。
 血の塊のようなそれは、ベランダで見たものを思い出させた。錆びた鉄の匂いがむっと漂ったような気がして、急いで鼻と口をふさぐ。すると薄暗い影がすうっと落ちてきた。
「血卵だね」
 みーちゃんはとくに気にするわけでなく、さらりと言った。
 ちたまご。
 聞き慣れない単語がやけに生々しく耳にこびりつく。