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 近くて遠いところから、ひょうきんな笛の音が聞こえる。
 そういえば、みーちゃんがお祭りがあると言っていた。だけど煙草の煙を散らかしたような空は、いまにも泣きだしそうだった。
 みーちゃんは傘を持っていっただろうか。外に出ることが禁止されていなかったら、駅まで迎えに行くことだってできるし、夕飯の買い物だって自分で行けるのに。
 お仕事でへとへとになったみーちゃんが、ストローみたいな腕でお米をかついで帰ってくるときは、いつだって心が落ち着かない。それでもみーちゃんは約束はぜったいに守ってと言う。平和であることと自由であることは、別のことなのかもしれない。
 ふらりと窓をあけて隣のベランダを覗くと、猫たちがいた。雨が降ってきたらなかに入れてもらえるんだろうか。雨のはじまりの匂いがする。
 それにしても今日の猫たちは、いつもよりぎゅっと身を寄せ合っているように見える。まるでひとつの生き物になろうとしているみたいに。くすぐったくないのかな。仕切り板の穴にべったりとおでこをくっつけて、猫たちを見つめる。
「――え?」
 それ(、、)に気づいた瞬間、ぽつりと雨粒が頬に貼りついた。幕を切ったかのように雨は一気に降りだし、ベランダは灰色から墨色へと染まった。
 サンダルと足の裏のあいだでは雨水と砂と埃と汗がぐっしょり混ざり合って、足の裏にまたひとつ秘密を感じた。