――チャイムが鳴っても、誰かが来ても、ぜったいに玄関はあけないでね。

 これもみーちゃんとの約束。
 暑いなかやってきた配達員さんが何度も鳴らすチャイムを聞くのは、背中がひやひやする。それでも、みーちゃんとの約束は守らなきゃいけない。
「ねえ、もしかしてブランケット洗った?」
 みーちゃんはソファーの手すりにかかっているブランケットをつまみ上げた。心臓がぴくん、と脅える。
「……なんで?」
「洗剤の香りがしたから」
「あ、うん。ちょっと汚しちゃって。染みにはなってないんだけど。でも、ごめんなさい」
「いいよ。これ、もうけっこう長いこと使ってるからヨレヨレだし」
 よかった。ベランダに出たことがばれたのかと思った。そうだよね。まさか、そんなことに気がつくわけがない。
「あーちゃん、さっきの映画の続編もあるけど、このまま続けて観る?」
「観るっ!」
 飛び跳ねて声をあげると、みーちゃんが笑った。
「じゃあ先にシャワー浴びておいで。このまえみたいにソファーで寝ちゃってもいいように」
「あ、それなら先にみーちゃんが」
「あーちゃんが先にどうぞ。シャンプー、新しいやつ買ってきたから使ってね」