カラオケに行ってから数日が経った。
私の身体は、驚くほど悪化した。
あぁ、もう私には時間がないのだと、そう思ってしまった。
維斗は、あれから毎日のように来てくれた。
そんな、ある日。お母さんが険しい顔をして病室に入ってきた。
「お母さん?どうしたの?顔、怖いよ?」
ハッとしたかのようにお母さんの顔が緩んだ。その時、もう私は気付いてしまった。もう、私はこの何日かがヤマだろう、ということに。
「ねぇ、お母さん」
「なぁに?天舞音」
「お母さんは、どうして天舞音って名付けたの?」
「そうねぇ。あなたは、生まれつき心臓が普通の子よりも欠陥していたの。でもね、たとえ、普通の子よりも制限があっても天のような子になってほしかった。舞は、私の字から。音はね、あなたは小さい頃音楽をかけてあやしていたらすごくすごく好きそうな顔をしていたから。だから、天舞音ってこういう字になったのよ」
そう、だったんだ。
「お母さん。私を産んで、ここまで育ててくれてありがとう!」
ポタポタと2人の目から涙が、零れ落ちた。
「私こそ。天舞音に出会えて本当に良かった。ありがとうね」
そう言って、抱きしめあった。
そのハグは、一番温かくて気持ちの良いハグだった。



「天舞音」
「維、斗」
「体調は?」
「普通、かな?」
「そう、か…」
しばらく、2人して黙ってしまった。
「あの、な、天舞音」
「なぁ、に?」
「今から、言う言葉。忘れないでほしいんだ。
今は、辛くても必ず幸せな時がやってくるから、な」
今は、辛くても必ず幸せな時がやってくる、か。
「分かった。今は、辛いけど維斗といるときは幸せな時だから、その言葉刻み込んどく。たとえ、生まれ変わって、またこの世界に来れたとしても」
「あぁ、約束」
私は、維斗と最初で最後の約束をこの日初めて交わした。