「カイル~どお? 釣れた? 」
 「おう! こんくらいあれば足りるだろ」
 そう言って大きなバケツを少しこちらに傾けてくるのでつられて覗き込む。
 「わっ! いいね」
 大きく水しぶきを上げて踊る魚たちは今にもバケツから飛び出してきそう。
 「ロマもよさそうだな」
 カイルは僕の背負っていた箱を覗き込み木の実の収穫率をみてうんうんと満足そうになずいた。
 僕らがトマに頼まれたのは魚釣りと木の実集め。
 まだ何をつくるか聞かされてないけど要望の数から予想するに凄く大規模な料理になりそう。
 祭りも迫ってきているし初めてのことに胸が躍る。
 カイルと肩を並べて歩く帰り道。
 どんな祭りなのかな、何をつくるのかなと2人ともわくわくがあふれ出ていた。
 
 「ただいま」
 「お帰り、あらいいじゃない。カイルは魚をさばいてくれる? ロマは木の実を仕分けて半分を煮詰めてちょうだい」
 「外でミンが火を焚いて待っているわ」とトマはウィンクを1つ。
 どうやら気持ちが高ぶっているのは僕らだけじゃないみたい。
 キッチンで仕入れをするトマも外で火をおこすミンもいつもより気合が入っていてパワフルだ。
 そんな2人の姿に「よし」と袖をめいっぱいまくる。
 木の実を大きさと綺麗さで分け、小さくて少し傷のついたものをつぶす。
 完全につぶしきらないのがポイントでこの少し残った実が歯ごたえとなっておいしさをパワーアップさせるんだ。
 そしたらそこに砂糖を入れるんだけどいつもより少なめとの指示が出たのでスプーンもう1杯分入れたい所をグッとこらえる。
 ミンが焚いてくれた火に鍋をかけ、調節しながらぐつぐつと煮込む。
 「いい匂いだね」
 「完成が待ち遠しいな」
 魚をさばき終わったカイルも汗をぬぐいながら甘酸っぱい香りに誘われてやってきた。
 
 「いい感じね。じゃあこれにジャムと魚を入れておいてくれる? 」
 そう言ってトマが持ってきたのはお皿に入ったホワイトソースたち。
 「「包み焼だ! 」」
 今作っている物の正解が分かった僕たちが口をそろえて言うと
 「正解」
 と得意げに言うトマ。
 トマの包み焼は格別だ。
 濃厚なホワイトソースに甘いジャム、そこに塩で味付けしたシンプルな魚を置く。
 パイをしいて切り込みを入れたものをミンの火にいれじっくり焼く。
 風になびいて舞ういい香りが僕らの笑い声と混ざってパンとはじける。
 これを食べて笑顔になる皆の顔、早く見たいな。

 「いい匂いだな~」
 包み焼を囲む4人の隙間からひょいっと顔をのぞかせたのは
 「兄ちゃん! 」
 「よ。近く通りかかったらめっちゃいい匂いしたから何かと思ったら。トマ、ミン、久しぶり」
 そう言ってまたスッと息を吸い包み焼を嗅覚で堪能した兄ちゃんはミンとトマに手を振った。
 「久しぶりね、お父さんは元気? 」
 「もちろんだよ。逆に元気すぎて困ってるくらいだ」
 トマもミンも最近町に降りてないわけじゃないけど僕らが来てから買い物とかの用で降りなくなったから兄ちゃんと会うのは久しぶりなんだとか。
 
 「あ、そうだ。2人ともこの後暇? 子供たちの世話手伝って欲しくて」
 ミンに「行ってらっしゃい」と笑顔で言われたので3人で町に降りた。
 兄ちゃんは本当にしっかりしていて働き者のこの町の人たちの子守をしょっちゅう任されている。
 この子守を手伝うのはよくあることで僕らも皆と遊べるのは楽しい。
 「カイル~鬼ごっこしよ~」
 「ロマはパン屋さんね」
 「え、兄ちゃんも鬼ごっこするよね」 
 小さい子たちはパワフルで元気が取り柄のカイルもいつもへとへとになるまで走り回ってる。
 僕は比較的女の子たちの相手をすることが多いからその様子を見て大変だなぁと他人事だ。

 「川より向こうは駄目だからな~」 
 疲れ果て、さすがに休憩とカイルと兄ちゃんが戻ってきた。
 「子供ってすげえな」 
 まだまだ遊び足りないと走り回る子供たちをみて3人で関心してしまう。
 僕らも一応まだ子供ではあるけど。

 こうやってゆっくり3人でしゃべる機会もなかなかないからいつもできない話に花が咲く。
 その中でも昔、この町で起きた怪事件の犯人が何も知らない兄ちゃんだったというオチの話は面白かった。
 
 「そういえばさ」
 話の流れでひそかに気になっていたことを聞いてみることにした。
 兄ちゃんはかなりこの町に詳しいみたいだし。
 「チールドってどこにあるの? 」
 「チールド? 」
 「チールドな、確かにどこにあるか知らないわ」 
 カイルも思い出したというように兄ちゃんの方を向く。
 「ミンに初めてであった時に言われたんだ。”チールドの子たちかい?” って」
 「そうそう。なんか親のいない子たちの集まり? って言ってたよな」
 少し薄れていた記憶が鮮明になり2人で懐かしいねと笑う。
 けど兄ちゃんは顎を手で触りながら
 「俺はそんな場所聞いたことないな」
 と首をかしげた。
 「え、町はずれとかにもないの? 」
 町のことは何でも知ってる兄ちゃんが、珍しい。
 「うーん。この町周辺のことは大体知ってるけどそんな場所は聞いたことないよ。”親のいない子供たちの集まり”なんてこの町全体でもっと積極的に面倒見るだろうしさ」 
 確かに言われてみればそうだ。
 この町にいてそういう子たちと全くかかわりがないというのは少し不自然だし、何より兄ちゃんがピンと来ていないのが何よりもおかしい。
 名前、聞き間違えてたのかな。
 それとも

 そんな場所この町にはない?
 
 だとしたらなんでミンはそんな嘘をいう必要があったのだろう。

 「ねぇ~おなかすいた~」
 考え込んでしまっていると子供たちは遊びに飽きたみたいでぞろぞろと集まってきていた。

 「よし、じゃあ帰るか」 
 と皆で手をつなぎ、歌を歌いながら全員を家に送り届けた。