「と言う事だから皆仲良くしてやってくれよな」
 僕らよりも少しお兄さんくらいの人が僕らと同じかそれより小さい子達に紹介してくれた。
 この人はこの町の子供の中で1番お兄さんらしく皆は手をピンとあげて「はーい」と元気よく返事をしてくれた。
 歓迎モードにホッと胸をなでおろす。

 「これ、あげる」
 ぼーっとしていたのか目の前に女の子がいたのに気が付かなかった。
 かがんで目線を合わすと小さな手に納まりきらないくらいの大きな花を差し出された。
 薄ピンクのような薄紫色のような花びらがぎゅっと1つになったその花はトマとミンの家に行ったとき花瓶に刺さっていたものと同じかもしれない。
 少し見覚えがあった。

 「この花、この町を象徴するものなんだ」
 「仲間入りの証! 」
 そう言って他の子も「あげる」とその花を僕とカイルに差し出してくれた。
 「ありがとう、嬉しいよ」
 風に乗って花の甘い香りがそっと僕らの空間に色を付ける。
 
 「そうだ! カイルとロマにもお花畑見せてあげる」
 メガネにおさげの少女が僕らの手を引き、皆も「いいね! 」と勢いよく走り出した。
 困惑しているのは僕だけじゃないみたいで「なんだなんだ? 」とカイルもバランスを崩しながらとりあえず皆のあとに続いた。
 でも自然と頬が緩む。
 楽しい 嬉しい 幸せ
 言葉に言い表せられないほどの気持ちを何とか抑えて走った。
 少し細い道を抜けて、川を渡り、山を登ってついた先。

 「ここだよ」

 指をさされ顔を上げる。
 そこには一面の花畑が広がっていた。
 どこまでもどこまでも続く花畑。
 さっきくれた花の1つが風に舞った。
 「家族の所へ帰っていくみたいだね」
 お兄さんが言う。
 その花を歓迎するようにゆらゆらと揺れる花々は夕日を反射して水面のような輝きを見せた。

 「どお? 凄いでしょ。誰が植えたわけでも誰が育ててるわけでもないんだよ。僕らのご先祖様がこの地にやってくるずっと前からあったんだって」
 「この町では新しい住人をここに案内するっていう儀式みたいな、お約束みたいなものがあるんだ。2人をまだ案内してないってミンとトマが言ってたから連れてこれてよかった」
 
 「すごい,,,,」
 生まれて初めてこんなに美しいものを見た。
 さっきまで走って息が上がっていたはずなのにそんなのを忘れるくらい見入ってしまう。

 「改めて、ようこそ僕らの町へ。2人と出会うことが出来て嬉しいよ」
 そう言われて2人してハッと皆の方を見る。
 この花畑に負けない、いやもっとかもしれない。
 笑顔でそう言ってくれる皆の顔はキラキラと輝いていて穢れなんて一切感じさせない。
 僕らは今まで灰色の世界を生きてきたんだ。
 モノクロで絶望で何もなくて失う物を最小限にする方法ばかりを考えていた。
 生きていることに後ろめたさを感じて、でもなんとかもがくしかなくて。
 もがいてもがいてここまで導かれたんだ。

 気が付けば涙が頬をつたっていた。
 カイルも同じだった。
 「どうしたんだよ」
 心配そうに見る皆と優しく包み込んでくれるお兄さん。
 僕らに「生きてていいんだよ」って
 「世界には美しいものが沢山あるんだよ」って
 そう教えてくれた。