「狭い家だけど、さぁ入って」
 そう言って僕らを家に入れてくれた。
 「お、お邪魔します」
 おぼつかない足で家に入ると温かみのある木の床が僕らを迎え入れてくれる。
 暖炉の火はゆらゆらと優しく揺れ、小さなダイニングテーブルには初めて見る花がきれいに置かれていた。
 ふっと家族と一緒に囲んだ食卓での光景が頭の中をちらついて心がキュッと小さく音をたてたけどその気持ちを感謝に変えておじいさんにお礼を言った。

 「あなた、おかえりなさい。まぁ」
 キッチンからエプロンで手を拭きながら出てきたのはおばあさん。
 僕らを見て警戒心とか怪しいとかそんな気持ちよりも先に
 「こんなにボロボロで。さあ火の前に。すぐご飯にしましょう」
 そう言って受け入れてくれた。
 
 2人は名前をミンとトマと名乗った。 
 おじいさんがミンでおばあさんがトマ。
 2人は子宝に恵まれずずっと寂しい思いをしてきたんだって。
 だから僕たちの事を天からの贈り物だなんていって受け入れてくれた。
 
 差し出されたスープはそんな2人の優しさがにじみ出ていて温かい。
 湯気のある食べ物なんて忘れていた。
 「美味しい,,,,」 
 「温まるね」
 トマトの酸味、玉ねぎの甘味、豆の食感。全部が体の隅々までしみわたって僕らに「ここにいていいんだよ」と言ってくれているみたい。
 
 「ずっと2人で暮らしてきたからね、ベッドがこんなのしかないんだ。ごめんね」
 そう言って案内してもらったのは小さな屋根裏部屋。
 シングルベッドと小さなテーブル、7畳ほどの空間を「こんなの」というが僕らにはありがたすぎる贈り物だった。
 見るからにふかふかのベッドや窓から差し込む日の光に目を輝かせていると
 「いつか子供が出来た時にって作ったものをどうしても捨てきれなくてね。ずっと残しておいてよかった。好きに使っていいからね」
 そう言う2人に
 「本当にありがとう」
 心からのお礼を。
 かしこまってしまう僕らを優しく包み「おやすみ」と1つウィンクをして部屋を後にした。

 「こんなことってあるんだな」
 夜。2人で1つのベッドに横になり天井を見上げているとカイルがそう落した。
 「ほんとだね、僕らにも優しい世界があるなんて思ってなかったよ」
 生まれて初めて他の人から優しくされる。愛をもらう。
 「不幸の象徴」そう言われて生きてきたのに2人は僕らを「天からの贈り物」だといってくれた。
 すべての事が目まぐるしくて心が置いてけぼりになっていたけどこうやって落ち着いて考えてみると本当に奇跡のような出会いをしたんだと実感がわいてくる。
 「ねぇカイル、あっ」
 カイルは今日の事でかなり疲れていたのかいつの間にか眠ってしまっていた。
 僕も寝ようと布団をかけて気が付いた。

 カイルの頬に1滴の涙がスッと落ちているのに。
 その涙を拭いつぶやいた。
 「大丈夫。僕はずっとカイルの側にいるよ」