久々の故郷。
久々の建物たち。
あぁこんな感じだったって懐かしさを感じる。
そして久々の罵倒。
降ってくる石が頭に当たれば鈍い痛みと共に血がつたう。
鎖でつながれた僕らは3日かけて国を歩かされた。
「ハシュとパトラムに制裁を」
「悪魔! 」
「早く死んでしまえ! 」
3日目にもなるともう自分が生きてるのか死んでるのかも分からなくて投げられた石でバランスを崩し、倒れてしまうくらいだ。
でもそれを許してくれる奴なんているはずもなく無理やり起こされてはとめどなくムチがとんでくる。
ハシュとパトラム
なんだかその呼び方、久しぶりだなぁ。
僕はロマだ。ハシュじゃない。
カイルはカイルだ。パトラムじゃない。
僕らはもう争うことをしていないのに、どうしてこの人たちはいつまでも僕らを敵にするんだろう。
「お前らのせいで、畑が枯れたんだ! 」
「お前らが問題を起こしたせいでお父さんの病気が悪化したのよ! 」
あぁそうか。
この人たちには器が必要なんだ。
自分に降りかかった不条理や理不尽の言い訳にする器が。
それを失ったら生きていけないんだ。
自分たちのしていることに疑問を持たないから、八つ当たりとか責任転換って言葉がしっくりくる。
そんなこいつらは僕らを殺した先、何にすがるんだろうか。
3日間国を歩き続け、国民の怒りを一身にうけた僕らに下された運命。
それは
「お前らにはどちらかが死ぬまで、殺し合ってもらう」
その瞬間理解した。
殺した方はまたこいつらの器になるんだ。
国民は僕らを蔑んでいながら、必用としている。
僕らに下された運命はあまりにも残酷で、吐き気すら感じる。
町での暮らしを全部なかったことにして自分に絶望するくらいにはこの世に落胆した。
僕らは結局ハシュとパトラムと同じ運命を生きるんだ。
カン カン
かすかにそんな音がした。
国の人の叫び声しか聞こえなかった僕の耳にそんな小さな音が。
だれも気が付いていない。
だってこれは僕ら2人だけの音だから。
ふとカイルの縛られている腕を見る。
バングルを爪で叩きまた、音を鳴らした。
カイルの顔はもうボロボロで目は腫れあがり、拭うことのできない血が好き放題流れていた。
でもそんな顔は特殊メイクか何かなのかと思わせてくれるくらいの澄んだ表情で僕の顔をみて微笑んでくれる。
「大丈夫。俺らなら」
そう言ってくれている気がして僕も小さく微笑み返す。
ハシュの事が分かるのはパトラムだけ。
パトラムの気持ちが分かるのもハシュだけだ。
僕らは、神様に不幸の象徴とされたあいつらとは違う。
僕らの間に国のやつらはいらない。
この国で1番大きな闘技場。
国中の人たちが集まって真ん中に立つ僕らに向かってもう聞き飽きたようなセリフを吐き捨てる。
もし、言葉に色や形があったらここは真っ黒でも何でもない”虚”だろう。
ここに吐き捨てられる言葉たち全部に意味も形も何もなかった。
僕らに渡されたのは木刀1本ずつだけ。
本物の刀じゃないのはなるべく長く僕らの苦しむ姿を見たいからかな。
ほんとどこまでも悪趣味だなとこの期に及んで笑えてきてしまう。
捕まって以来僕らは言葉を交わせずにいた。
それでも不安なんて一切ない。
お互いの覚悟はお互いで分かっていたから。
もう、やるしかない。
木刀を握った僕らは戦いあった。
刀を振るい、時には拳を振り上げ、形も色もない罵倒に答えてあげる。ただそれだけ。
僕の刀がカイルの右目を突く。
カイルの刀が僕の肋骨にひびを入れる。
もうフラフラで視界は定まらない。
痛覚が鈍りもはや呼吸ができているのかも分からなった。
声を上げないとまともに意識を保っていられなくて、2人してもはや音になっていない声で叫ぶ。
なんで僕らがこんなにすんなり運命を受け入れられているのか自分でも分からない。
きっと僕らは絶望し疲れてしまったんだろうな。
もう、いいんだ。
十分すぎる幸せをもらったよって。
あとはもう、カイルを信じているから。
ねぇカイル。
今、何を考えてる?
きっと同じこと考えてるんだろうなぁ。
お互い片目はつぶれた。
骨も沢山折れてるだろう。
どうして立ち上がれているのか、どうして刀を振れているのか、自分でも分からないよ。
カイル。
ありがとう。
僕の光になってくれて
僕を導いてくれて
僕と出会ってくれて
僕に生きてていいんだよと教えてくれて
僕に美しいものを教えてくれて
僕に出会いをくれて
本当にありがと。
もう
いいだろ
楽にするから。
そう心でつぶやき、カイルと最大限距離をとって
そして思いっきり走った。
カイルも同じようにこちらに全力で走ってくる。
今ある全ての力を使い、振り絞り、途中でフッと意識が途切れそうになるのを必死に踏ん張って。
狙う場所はもう決めてある。
そこをめがけて
力いっぱい木刀を引いた。
ありがとカイル。
ばいばい。
来世はきっと、ね。