「ふあぁぁ……。眠い……」


 ――今朝からあくびの連発が止まらない。
 何故なら、昨日は加茂井くんに告白して脳も身体も興奮していたせいか全く寝付けなかったから。
 しかも、時間と共に失恋が現実味帯びてくると、心の中は再び灰色の空に染まっていった。
 もちろん、上手くいくなんて思ってない。
 ただ、フラれるとなると次はメンタルの問題が発生してくる。

 しかし、そう考えてたのも束の間。


「矢島、うっす!」


 加茂井くんは後ろから明るい声でポンッと肩を叩いてきた。その表情は、昨日とは打って変わって晴れ晴れしい。
 これが彼からの初コミュニケーションだったから、嬉しくて先ほどの眠気が一気に吹っ飛んだ。


「おっ、おはようございます!!」

「昨日は飴をありがとう。久しぶりにミルク飴の味を食べたせいか懐かしい味がした」

「美味しいですよね。実は昔から好きな飴なんです」

「そうなんだ。……あのさ、矢島っていつも一人でいるけど友達作んないの?」


 加茂井くんが私を気にしてくれるのは願ったり叶ったりだけど、気にするところはやっぱりそこかと思い知らされる。


「……苦手なんです。雑音が」

「雑音って?」

「わっ、私のことは別にいいです。……それより、少し元気になりましたか?」

「矢島が気にすることじゃないよ」


 と、少し元気のない声のまま曖昧な返事が届く。
 どうしたら加茂井くんの気が晴れるのかな。失恋した時にだいぶショックを受けていたから立ち直るのに時間がかかるかもしれない。


 ……でも、こうやって加茂井くんと肩を並べて登校できるなんて夢みたい。失恋が確定しても、1年5ヶ月間こういう姿を何度も夢見描いてきたから。
 赤城さんは隣でこの光景を見続けてきたんだよね。羨ましいな……。


 しかし、うっとりとしていた目線を前方に向けると、3メートルほど先で赤城さんと木原くんが肩を並べて歩いている。
 それを見た途端、加茂井くんのカバンを引いた。すると、彼は「何?」と言って振り返るが、とっさに返事が出てこない。気まずく目線を外していたうちに彼は異変に気づき、前方を見て私が隠し通したかった事実を悟った。


「もしかして、沙理達が一緒に歩いてるところを見て……」
「だって、見たくないですよね。先日まで彼女だった人が別の男性と一緒に歩いてるところなんて」


 彼の心境を考えてシュンとしたままそう言ったけど、彼は顔色一つ変えずに言った。


「確かに二人が一緒にいる所を見るのは嫌だけど、俺もいま矢島と一緒に歩いてるし」

「はっ!! そうでした……」

「プッ……、変なやつ」

「すっ、すみません……」


 心配し過ぎちゃったかな。それとも、少し時間が経ったから落ち着いたのかな。
 私はまだ何もしてあげれてないけど、いつか本物の笑顔を取り戻してあげたいと思っている。