――翌日、学校帰りに加茂井くんの家にお邪魔させてもらった。
 雨の日に拾った子猫の話をしてたら「見に来る?」って言ってくれたので、遠慮なくお邪魔させてもらうことに。
 
 彼の家は学校から徒歩15分のところにあるグレーの壁面の一軒家。
 玄関を開けると、あの頃の面影がないほど子猫は大きくなっていた。
 玄関に上がると、猫は彼の足にまとわりつく。


「この子はなんていうお名前ですか?」

「メロンだよ」
 
「メロンちゃんか。かわいいですね」


 怖がりな性格なのか、それとも捨てられたあの日が忘れられないのか、メロンちゃんは人見知りをして傍に寄ってこない。
 彼が猫を抱っこして「中に上がって」と言って背中を向けたので、私はその後ろについていく。
 二階の部屋に到着すると、彼はメロンちゃんを床に下ろした。でも、メロンちゃんは私と距離を置いている。


「フクちゃん、まだ見つかんないの?」

「まだ……。街中にチラシを貼っても目撃情報止まりで」


 フクちゃんはもう3ヶ月も帰ってこない。空になったゲージを眺めていると、恋しくなるあまり涙が浮かび上がってくる。
 家に来てから5年間愛情たっぷりに接していたせいか諦めがつかない。
 メロンちゃんを間近で見ていたらフクちゃんを思い出した。次第に身体が震え出すと……。


「俺も一緒に探すよ。だから、心配しないで」

「でも、もう3ヶ月も帰って来ないんですよ。どこかでケガをしちゃったのかな。それとも事故に遭っちゃったのかな。お腹空いてないかな……。毎日が心配でたまらなくて。もう二度と会えないと思ったら、私……、私…………」


 感情的になってしまったせいか、瞳から熱いものが滴った。
 近所中の電柱に張り紙を貼ったり、5キロ圏内の交番や街の掲示板に迷い猫の張り紙を貼らせてもらったり、駅でチラシを配ったり、やれることは全てやってきた。
 それでもやっぱり限界はあって、待つだけの時間は心配に包まれる時間になっている。


「粋が会いたいと思っているってことは、きっとフクちゃんも会いたいと思ってるはずだよ」

「だといいんですけどね……」

「大丈夫。フクちゃんは、ちゃんと粋の元に帰ってきてくれるよ」


 彼は私の頭をナデナデしてそう言った。
 私は猫じゃないのにね。


 ――あの日、加茂井くんがメロンちゃんを拾わなければ私達は出会わなかった。顔見知り程度で終わっていたかもしれない。
 彼が段ボールの前を素通りしてたら私がメロンちゃんを飼ってたかもしれなかったし、メロンちゃんが家にいたらフクちゃんも家を出ていかなかったかもしれない。

 運命は良くもあり、悪くもある。 
 でも、彼に出会えたことは人生最大級の幸せだと痛感している。