――場所は派出所。
 鈴木さんは今日もいつも通り、手を後ろに組んで小学生の帰宅を見守っている。
 この時間は小学生の帰宅時間のようで、子供たちはランドセルを上下に揺らしながらかけっこをしているかのように目の前を駆け抜けていく。
 そのせいもあって、直前まで身体を撫でていたチロルはビックリして草むらに逃げ込んだ。
 取り残された私はその場に立ち上がると、鈴木さんは言った。
 

「さっき粋ちゃんに声をかけられた時は誰だかわかんなかったよ」

「私の見た目はそんなに変わりました?」

「一瞬、芸能人かと思っちゃったよ。この数日で街一番の美人さんに変身したからね」

「あははは。あっ、そうだ! 先日はアドバイスをありがとうございました」

「大したアドバイスは出来ないけどね。あれから彼にアピールできたの?」

「どうなんでしょうかね……。上手くいったと思ったら、そうでもなくて。ヤキモチを妬いてもらったと思ったら、私にじゃなくて。一歩前に進んだと思っていたのに、気づけば進んでなかったような状態ですかね」


 私は何をやっても空振りなような気がしてならない。
 偽彼女だからそーゆー運命を辿っているのはわかってるけど、私の気持ちだけが右肩上がりな分、漕いでも前に進まない自転車に乗っているかのよう。
 すると、鈴木さんは軽く首を傾げて顎を触った。


「いや、結構前に進んでるんじゃない?」

「えっ」

「粋ちゃんを見てるとわかるよ。最初に彼の話をした頃から比べて表情が活き活きしてるし」

「……そうですかね。自分じゃわかりませんが」

「あはは、そうだよね。でも、彼の話をする時はいつも楽しそうだよ。……あっ、そうだ。もう少し彼の悩みに寄り添ってみたらどう?」

「彼の悩み……ですか」

「男は親身になって話を聞いてくれる女性に気持ちが揺れ動いたりするからね」


 なるほど。私に足りなかったのは理解か。
 今日まで全力で突っ走ってきたから、理解なんて飛び越してきたかもしれない。

 私は赤城さんと同じクラスになったことがないから彼女の性格はよく知らないけど、加茂井くんから見たらどんな人だったんだろう。
 好きになるくらいだから、きっと特別な魅力があったんだろうな。