――下校後、派出所に寄り道をした。
私は2か月前から掲示板に貼らせてもらっている自作の迷い猫のポスターに触れながら、登下校の見守り警護をしている警察官の鈴木さんに先日のお礼を伝えた。
「先日は相談に乗ってくれてありがとうございました。実は、例の好きな人と付き合うことになりました」
「えっ、もう?? 先日、好きな人がフラれて落ち込んでるって言ってなかったっけ?」
「そうなんです。だから、励まそうと思って気持ちを伝えたらフラれちゃいました。でも、それから彼が元カノに復讐したいということになって、私が偽恋人を演じることになりました」
「恋人じゃなくて、偽恋人?? あはは……。若い子は色んな悩みがあるんだね」
「……それだけでも嬉しいんです。好きな人の傍にいられれば。だから、一歩前に進めなくてもいいんです」
そう言いつつも、やっぱり本物の恋人には憧れる。でも、いまの自分には贅沢だ。
私は赤城さんのように魅力的な女性じゃないし、友達がいるわけでもない。性格だって明るい方じゃないし、ぼっちだし……。
加茂井くんが偽恋人に選んでくれただけでも奇跡的だと思う。
すると、鈴木さんは私の隣に立って言った。
「粋ちゃんはもう一歩前に進んでると思うけど?」
「えっ」
「彼が粋ちゃんを偽恋人に選んでくれたと言うことは、好意的に思ってくれてる証拠なんじゃないかな。何とも思ってないなら、そんな大胆な提案はしないと思うよ?」
「そう……ですかね……。だとしたら嬉しいですけど……」
「粋ちゃんはもっと自信を持ったらいいよ。彼の気持ちは少なからず次のステップへ進んでいるからね」
彼はそう言うと、ニコリと微笑んだ。
正直、嬉しかった。彼の気持ちが不透明な分、こうやって背中を押してくれると前向きな気持ちになるから。
「あっ!! そう言えば、さっき男子高校生がここに来て『両耳にハート模様がついている猫を見かけませんでしたか?』って聞いてきたよ」
「えっ!!」
「きっと、フクちゃんを一緒に探してくれてる子だろうね。もしかして、粋ちゃんのお友達かな?」
「加茂井くんがフクちゃんを……」
「名前がすぐ出てくるということは、やっぱり知り合いだったの?」
「あっ、はい!」
「いいお友達を持って幸せだね」
昨日ちらっと話題にあげた程度だったから、本当に探してくれるなんて思わなかった。
こんな小さなことでも加茂井くんが気にかけてくれるなんて嬉しい。