「ちょっと、奏真さん遅いっ! 遅刻になっちゃうよ」

 「ごめんごめん、谷岡さんおはよう」

 あれから一週間。谷岡さんと私は声が出るようになったから学校でも普通に会話するようになっている。
 女子達のいじめもなくなり、今ではクラスメイトとも接するような学校生活が始まった。

 「そういえば奏真さんも三波先生のカウンセリング受けてたんでしょ?」

 「そっか、知ってた?」

 「うん、私も転校してきてから三波先生に相談してた。すごく優しくて寄り添ってくれる、いい先生だよね」

 そう、三波先生は本当に素敵な先生。カウンセラーだからというのもあるけれど、私が苦しんでいる間誰にも話せなかったことを、三波先生には話せた。
 三波先生にももしかしたら過去に何かがあったのかもしれない。だから私も三波先生といると安心感が芽生えるのかも、と思う。

 「……まだちょっと怖い?」

 「あはは、バレてた?」

 「分かるよ、私もそうだし。やっぱり不安は消えないよね」

 正直言うと、まだ少しだけ怖い。またいじめが起きたらどうしようという不安が心のなかにある。
 またこの声を失うかもしれない。学校に行けなくなるかもしれない。そう思うと一歩後退りしたくなってしまう。

 「移動教室だって、行こ、奏真さん」

 この当たり前だと思っていた日常は当たり前ではないということを気づかせてくれた人。私の心に寄り添ってくれる先生。私のことを一番に考えてくれている両親。

 そして何より、隣には私を助けてくれた仲間がいる。私の人生を変えてくれた人がいてくれる。
 だから私は、きっとこれからも生きていける。

 「うん、行こう、谷岡さん!」

 この出逢いに、祝福の声色を。