あーん、と、二夏が声を上げながら、ステーキの突き刺さったフォークを持ち上げる。嬉々とした表情でそれを迎えに行ったのは優牙だ。
「あー、もう、なんだよくそっ、とっくに付き合ってたのかよ」
 せっかく磯の鮑の片思いに苦しむ優牙が見れると思ったのだが。
「ん? うん、実はそうでした。もう優牙に一目惚れしちゃって」
「そう。なんか、煌は会うたび写真撮られてるけどさ、僕一回も撮られたことないから絶対脈ないと思ってたんだけど」
 実は、一番驚いているのが当の本人の優牙なのであった。
「あ、それはねー、煌の顔は鑑賞対象、付き合うなら優牙って感じだったから。ま、遠距離だけどねー」
「らしいよ」
 え、なんか失礼じゃないか?
「そういえばさー、新しいドラマの予告出たんだよね〜。十月からのやつ」
 相変わらず二夏の会話の切り替えスパンは短い。ちょっと突っ込みたくなればそんな暇もなくもう次の話題に移っている。
「ドラマ?」
 隣で口に銀杏を運んでいた月紫が話に加わる。
 秋が深くなってきた今、外は紅葉が見頃である。二夏の家──カフェ『Summer Vacation』で、四人は少し遅いランチを楽しんでいた。カウンターではなくボックス席を取り、煌は魚介スパゲッティを、優牙は肉を、月紫は銀杏を食べている。あ、二夏は水。
「そうそう。これ出る子がさ〜、話題のモデルさんなんだけど」
「モデルさん?」
「そう。なんか結構最近人気なんだよね。同い年くらいの。金華(きんか)っていう」
 ふーん、と優牙も楽しそうに彼女の話を聞いている。二夏は早速スマホを出して、画面をいじっている。
「めっちゃ可愛くて」
 そう言ってから、スマホの画面をこちらに突き出してくる。金華というモデルの宣材写真、だろう。
「・・・・・・ぁ」
 息が止まりそうになった。横に座る月紫も少し間を置いて「あ」と言葉をこぼした。
「煌、・・・・・・この人」
 一年、なんて空白期間は、人の容姿をそんなに変えない。見慣れていたはずの口元、黒の瞳、そして鮮やかな金髪。
 驚きすぎて息が止まったその後、体から力が抜けていくのがわかった。
 心を占めるのは安堵だ。
 生きていてくれたのか、という、そんな安堵。
 ──日華。
 会えなくていい。どこかで元気に生きてくれているのなら、それでいい。
 どうか、自由に友達を、恋人を、家族を作って、自由に、生きてほしい。たった一人の大切な妹に願うことは、昔から変わらない。
「え、可愛いじゃん」
「・・・・・・ちょっと優牙?」
「あ、ごめんごめん」
「謝られたら余計不安になるんだけど!」
「束縛激しいカップルってすぐ別れるっていうよね・・・・・・」
「え、月紫? どこでそのいらない知識つけてきたの?」
「そうだよなー、束縛なんてよくないぞ、二夏」
「そう言う煌と月紫はどうなのよ!」
 賑やかな声は、しばらく途切れない。