「──てよ、ちょっと起きてよ、煌。いい加減重いんだけど」
 はっと顔を上げる。飛び込んできたのは、月紫の困り顔だ。どうやら医務室のベッドに突っ伏して寝ていたらしい。額と腕を月紫の膝に乗せて。
「あっ・・・・・・え? 俺、は」
「あ、起きた。てことはそっかぁ、あれはマジで煌だったのか・・・・・・うぅ、恥ずかしい」
 月紫は、はあっとため息をついて弱々しくうなって顔を覆う。
 壁掛け時計を見れば、まだ十六時過ぎである。そこまで深く長く寝てしまったわけではないようだ。
「忘れて。全部忘れて。夢じゃん、夢ならほとんど内容忘れるよね? もうやだ・・・・・・」
「大丈夫、全部覚えてるから」
 煌は笑いながら、立ち上がって体を伸ばす。
「もう・・・・・・あれ? でも、なんで煌が私の夢に」
 ずっと隠していた顔をあげて、不思議そうな顔。
「ああ、それはな」
 獏のことを説明しようと口を開いたら、医務室の扉がばーんと勢いよく開いた。
「おぉおーいっ、勝手にアンコントロールになったんだけど! あ、起きてる。なんの夢見てたんすか煌さん、たぶんそれマジの月紫さんの夢っすよ。あ、煌さんの可能性もあるか。なんにしろなに見たんすか!」
 なんの遠慮もなく入ってきた獏がにじり寄ってくる。おいおい、今は先生が外してるみたいだからよかったけど、うるさすぎるだろ。
「えっ・・・・・・あ、あの白黒の人」
「あ」
 立ち上がった煌の姿で隠れていたお互いが対面する。月紫は驚いたようにつぶやき、獏は彼女が起きていることに気づいていなかったらしく固まった。
「こいつはB組の獏。なんか・・・・・・なんだ? 機械の不都合?」
「あっ、そそそそそうそう、そうっす! 夢操る機械が壊れちゃって!」
 まあ月紫の夢に入りたかったなんて言えるわけないよな。
「で、月紫の夢に俺が入っちゃったらしい」
「あ、そうなんですね。えっと、こう、一対一で対面するのは初めて、ですよね」
「は・・・・・・はい、そうすね。獏っす」
「月紫です。あ、玉兎です」
「・・・・・・あ、えーっと機械直してくるんで・・・・・・失礼しまーす」
 そそくさと獏は出ていった。
「元気な人だね?」
「まあ、そう、だな?」
 高速で通り過ぎた台風に、思わず顔を見合わせて笑ってしまう。
 大きな窓からのぞく雲は、その間から柔らかな日差しを差し込ませていた。