次は、どうやらまた肉体を持たせてもらえないらしい。俯瞰視点だ。
 朝の爽やかな空気の中、教室で座り読書をする月紫と、賑やかなクラスメイトたち。
 見回せば、優牙の大柄な背で隠されているが、どうやら煌も同じ空間にいるらしかった。あの体に入れてくれはしないのか。やはり慣れない感覚に、なぜだろう、と思いつつ見ていると。
「えーっ。そうなの?」
 月紫の隣の席で、一際大きな声が上がる。一つの席で、向かい合った二人の女子が話していて、たぶん椅子を移動させていない方の女子が叫んだのだ。
「そうらしいよ? ね、ロマンチックじゃない?」
 椅子を移動させた方の子が胸の前で手を組んだ。
「えーでも、脈なさそうだしあたしはやだけどな」
「なになに、なんの話?」
 そこにもう一人、友達らしき子が加わった。
 椅子を移動させてない方が答える。
「あ、あんた聞いといた方がいいんじゃない? 煌さんの話よ」
「煌さまの? なになに?」
 爆速で二人の話に加わる女子。煌は自分の、あるかもわからない口元が強張るのを感じた。
「煌さん、故郷に残してきた恋人がいるんだってーっ! 物語みたいじゃない?」
 ため息をつきたくなる。
「えっ、でもそれ、妹さんって話じゃ」
「それが、義理の、なの! つまり血が繋がってない、ってこと」
 そこまで詳細に広がっていたのかと驚く。
「どれだけ告白されてもOKしなかったじゃない? 多分それが原因って。そんな話あるんかって思うけどね、あたしは」
 そうだよなと、きっと届きもしないのに声を上げてしまう。ちらりと見た月紫の席は、いつの間にか空席になっていた。
 授業の板書が残る黒板に目をやれば、そこに書かれていた日付は、いつか聞いた、月紫の誕生日だった。