またか、と思う。
でも、なぜだろう。急にその薄暗い風景に、違和感を覚えた。これまでこんなことはなかったのに。見慣れぬ、それでいて見覚えのあるような。
ここは、どこだ。ぐるりと辺りを見回して、はっと思い出す。ここは、煌の、寮の部屋に似ているのだ。夕日の差し込む窓からは、寮の庭がのぞいている。
これまでずっと古風な場所ばかりを巡ってきたせいで、自分が現代を生きる者だと忘れかけていた。ふと自覚すると、これまでの夢が唐突に、短いことのように感じられ、遠くなった気がする。
「寮・・・・・・? なんで・・・・・・おーい、獏? 返事しろよ、天の声ー!」
久々に呼びかけた、彼からの返事はない。
改めてその部屋を見てみれば、確実に煌の部屋ではないことがわかる。そして、壁際のベッドに、仰向けに寝る、銀髪の少女に気づいた。彼女はオフショルダーの柔らかな、春らしいワンピースから出した腕で目を覆っている。少し離れたここから見てもそうわかるほど強く、強く唇を噛んでいる。
「っ! 月紫? 月紫!」
これまでずっと追い続けてきた姿に、呼びかけずにはいられなかった。しかし、彼女にはどうやら届いていない様子だ。それどころか、煌は自分の視点が浮いていることを自覚する。天井近くから俯瞰して彼女を見ているようだと。
自分の手を見てみようと、自分の足を見てみようとしてもそこにはない。まるで煌の精身体だけが浮いてるように。
これまでの夢とは、どこか違う。
「あれ?」
月紫の髪が、長い。膝裏を過ぎるくらいまである。確か今、彼女の髪の毛は腰ほどまでのはず。未来か、過去か、はてなが多すぎて、軽く処理落ち状態だ。
ぼんやり彼女の様子を観察していると、急に立ち上がって、机の方へ向かう。なにをするのだろう、と見ていると。
彼女は裁縫用の裁ち鋏を取り出して、髪の毛を切り始めた。
「えっ? は、ちょっ」
止めようとしたって、煌の視点が動くことはない。ざく、ざくと残酷な音を立てて綺麗な銀髪が床に散らばる。
ようやく気づいた。月紫の赤い瞳が涙で濡れている。
彼女は次に、引き出しからお菓子の箱を取り出して、それをゴミ箱へと捨てた。こぼれた拍子にのぞいた中身は、お菓子ではない。
『ツクシへ』と、表に書かれた手紙の束だった。
直感的に理解する。今はきっと、月紫が初めて人間界を訪れた日だ、と。気づいた瞬間、周りの景色が変わり始める。
ホワイトガーデンに戻ってきたらしい。目の前には相変わらず、残酷な姿のライラックが落ちている。
視線を上げれば、先にまた、月紫らしき姿が見える。
「月紫・・・・・・っ」
再び追いかければそこには、一面が開けた──真っ白な花畑が、広がっている。庭ではない。花畑だ。手前に一括して看板が並んでおり、一瞥するだけで『アカネ』『クローバー』『イチゴ』『カーネーション』『アイビー』などと大量の情報が流れ込んでくる。
また景色が、変わる。
でも、なぜだろう。急にその薄暗い風景に、違和感を覚えた。これまでこんなことはなかったのに。見慣れぬ、それでいて見覚えのあるような。
ここは、どこだ。ぐるりと辺りを見回して、はっと思い出す。ここは、煌の、寮の部屋に似ているのだ。夕日の差し込む窓からは、寮の庭がのぞいている。
これまでずっと古風な場所ばかりを巡ってきたせいで、自分が現代を生きる者だと忘れかけていた。ふと自覚すると、これまでの夢が唐突に、短いことのように感じられ、遠くなった気がする。
「寮・・・・・・? なんで・・・・・・おーい、獏? 返事しろよ、天の声ー!」
久々に呼びかけた、彼からの返事はない。
改めてその部屋を見てみれば、確実に煌の部屋ではないことがわかる。そして、壁際のベッドに、仰向けに寝る、銀髪の少女に気づいた。彼女はオフショルダーの柔らかな、春らしいワンピースから出した腕で目を覆っている。少し離れたここから見てもそうわかるほど強く、強く唇を噛んでいる。
「っ! 月紫? 月紫!」
これまでずっと追い続けてきた姿に、呼びかけずにはいられなかった。しかし、彼女にはどうやら届いていない様子だ。それどころか、煌は自分の視点が浮いていることを自覚する。天井近くから俯瞰して彼女を見ているようだと。
自分の手を見てみようと、自分の足を見てみようとしてもそこにはない。まるで煌の精身体だけが浮いてるように。
これまでの夢とは、どこか違う。
「あれ?」
月紫の髪が、長い。膝裏を過ぎるくらいまである。確か今、彼女の髪の毛は腰ほどまでのはず。未来か、過去か、はてなが多すぎて、軽く処理落ち状態だ。
ぼんやり彼女の様子を観察していると、急に立ち上がって、机の方へ向かう。なにをするのだろう、と見ていると。
彼女は裁縫用の裁ち鋏を取り出して、髪の毛を切り始めた。
「えっ? は、ちょっ」
止めようとしたって、煌の視点が動くことはない。ざく、ざくと残酷な音を立てて綺麗な銀髪が床に散らばる。
ようやく気づいた。月紫の赤い瞳が涙で濡れている。
彼女は次に、引き出しからお菓子の箱を取り出して、それをゴミ箱へと捨てた。こぼれた拍子にのぞいた中身は、お菓子ではない。
『ツクシへ』と、表に書かれた手紙の束だった。
直感的に理解する。今はきっと、月紫が初めて人間界を訪れた日だ、と。気づいた瞬間、周りの景色が変わり始める。
ホワイトガーデンに戻ってきたらしい。目の前には相変わらず、残酷な姿のライラックが落ちている。
視線を上げれば、先にまた、月紫らしき姿が見える。
「月紫・・・・・・っ」
再び追いかければそこには、一面が開けた──真っ白な花畑が、広がっている。庭ではない。花畑だ。手前に一括して看板が並んでおり、一瞥するだけで『アカネ』『クローバー』『イチゴ』『カーネーション』『アイビー』などと大量の情報が流れ込んでくる。
また景色が、変わる。