白い。
 一言で言ってしまえばそれだけ。しかし煌の目には色彩に富んだ植物たちが映る。それらは一面に植えられ、一部には白いアーティファクトも見受けられる。白い木材で出来た東屋や、白く塗られた鉢植え、白ウサギの人形、陶器の置物。
「ホワイトガーデン、てやつか・・・・・・アスター、アセビ・・・・・・あいうえお順なのか?」
 いつか月紫が話していた。
 確かホワイトガーデンの話をしたのはあの日だけ。獏はどれだけ耳がいいんだ、あの距離でも会話が聞こえていたとは。
 少し辺りを散策してみる。植物に詳しくない煌に対してかはわからないが、親切にも植えられている花の一つ一つに、小さな看板で名前が明記されているようだ。
 ちょっと黄色寄りの白の花。隣には、少し青っぽい白の花。
「こう見ると、マジで月紫の毛皮の色って珍しいんだな」
 あの、混じり気のない純白はよっぽど珍しいのだろうと、改めて認識した。
「・・・・・・ん?」
 一人でつぶやいたそばから花たちに埋もれた純白が目に留まる。
 思わず近づけば、それはすぐに動き出した。俊敏に、でも、追いつけない速さじゃない。
 玉兎の姿になった月紫に、とても、とてもよく似ている。
「っ月紫!」
 叫んで、走り出す。しかし、その姿に触れることは叶わなかった。
 気づけば目の前には小さく開けた、なにも植えられていないスペースがあって、その真ん中には無惨に折られた白い花が置かれている。よく見れば、葉がハートの形をしていた。小さな花が、散らばって落ちている。
 あいにく煌は植物に明るくない。困惑していれば、目の前に手のひらサイズの看板がささっていることに気づく。
『ライラック』
書かれている文字を確認した途端、また周りの景色が変わる。