一抹の不安を持って臨んだ浦島太郎では、まさかの乙姫になった。なぜ乙姫なんだとは思いつつ待っていたら、結局浦島太郎(月紫)は竜宮城の門前まで来て帰ってしまった。追いかけようと思ったときにはすでに彼(彼女?)は陸に上がったあとのようで、また会えなかった。

 桃太郎でも、鶴の恩返しでも、どの童話でも、どのお伽話でも、月紫に会うことは叶わなかった。
触れようとした瞬間に、月紫は踵を返して手からすり抜けてゆく。

 追いかけて、追いかけて、無我夢中で追いかけて── 長い、長い、旅だった。長かったのか、短かったのか、時間感覚すらも忘れてしまうくらいに。
 何度も銀髪の少女や少年を、女性や男性を見かけては、タッチの差で触れることができずに舞台が変わる。その度に新しい肉体を手に入れ、物語が進む。気づけば獏の声は聞こえなくなっていた。
 月紫に触れようと、月紫と言葉を、視線を交わそうと、必死に動き続けて──ああ、またか、と思う。
 また、周りの景色が変わる。