月紫が、来ない。
 人間界から戻って、数日。
 最近月紫が図書館に来ない。
 北海道のガイドブックを片手に、ちらちらと入り口を確認する。先ほどから激しい夕立が降り始めたため、室内で読書だ。一つしかない入り口の近くを陣取った。
 何度も見るそこに、銀髪の彼女は現れない。
「・・・・・・月虹寮・・・・・・行ってみるか」
 正直気は進まない。しかし、一日ならまだしも、こうも続くと心配になる。なにかしらに巻き込まれていたら困るしな。
 立ち上がって、図書館から玉兎たちの寮、月虹寮へ向かおうと外に出る。そんなに離れていないので、走ればずぶ濡れにならずには行けるだろう。
 軽く腕で雨を遮ろうと顔の前にかざして走り出そうとした瞬間、前から走ってきた誰かとぶつかった。
 わっという小さな女子の声がして、目の前に白銀の髪が舞う。まさか。
「つく──」
 月紫、と口走ろうとして、別人であると気づいた。違う。彼女の髪はこんな緩いウェーブを描いてはいない、と。
「いや、悪ぃ、人違っ」
「あ、あ、あの、煌さんですかっ?」
「え? あれ」
 よく見れば見覚えのある顔だ。確か月紫の友達で同じクラスの、朔、と呼ばれていた子だ。
「やっぱり、煌さんですよね?」
「あ、ああ、そう、だけど」
「月紫が倒れたときにまるで遺言みたいに言ってたから・・・・・・いつも図書館で会ってるって聞いてたから、心配してるとあれだなって」
 前回会ったようなゆったりとした喋り方が、少し乱れている。慌てているのだろうか。
「・・・・・・倒れた?」
「さっき、急に。・・・・・・あ、別になんか睡眠不足と疲労、貧血に低気圧だろうって医務室の先生は」
「は?」
「確かにここ最近よく寝れないって言ってたし、そのせいか夜遅くまで勉強してたし。昨日生理来たって言ってたし、今日雨だし」
 フルコンボだな・・・・・・。
「なんか、最後に煌って言ってたから、なんか言いたいことあったのかもとか思って。あの、医務室に行ってやってくれません?」
 断る理由はなかった。うなずいて、医務室へ走り始める。