ちりちり、可愛く鈴が鳴った。優牙と煌のバッグについたキーホルダーが、共鳴している。傾きかけた陽の下、男友達二人はぶらぶらと歩いていた。
 梅雨の走り、雨上がりの道には水たまりが点在していて、夕陽を反射し鋭く輝いている。
「ふあぁ〜、やっぱ安心する〜、この空気」
 煌の数歩前で、両腕を広げて立ち止まった優牙が深く、深く息を吸う。人間界から戻った最初の授業の帰り。
 優牙は、こちらへ帰ってからずっとこの調子だ。ひがなにこにこしていたので、教師やクラスメイトに気味悪がられていた。
「いや、変わらねーだろ別に」
「なんかこの、空気感? ほっとする」
 こちらを振り向いて、優牙は心底力の抜けた顔をする。ふにゃあというか、しなしなというかなんというか。
「でも、ちょっとは克服できたろ。人間界」
「まあ・・・・・・言うほど身構えなくても、とは・・・・・・思った、かも? 二夏ちゃん可愛かったし」
 カバンのキーホルダーをいじりながら、優牙は追いついてきた煌と並んで歩き始める。
「ほら見たことか。怖がりすぎると神経すり減るぞ。って言っても優牙だからどうしようもないけど」
「よくわかってるじゃん。僕だからね」
 なにを誇らしげにしているのかわからないが。
 まあ、いいだろう。
「俺ちょっと図書館行ってくる」
 月紫──人間界に憧れる月紫に、たくさん土産話があるのだ。
「ふうん、煌最近図書館行くよね。あ、放課後だけ。連休とかは相変わらず走り回ってるもんね──人付き合い悪くなった? 彼女できたの?」
「え、違うけど」
「ちなみに来月のあれは参加できそう?」
 急に優牙が声をひそめる。煌も、同じようにトーンを落としつつ、わくわくし始める胸を抑えられずに答えた。
「いや全然、忙しいわけじゃないからな? もちろん参加する」
「好きだもんなー、煌。本当に、勝負事大好きだよな。体育祭のときも、声すごい聞こえやすかったぞ」
「え、マジ? 気をつける」
 こちらへファンサをしてくれたのは、俺の声が聞こえやすかったからだろうか? 目立ちすぎたかと、少し反省する。
「クールに見えて実は熱くなりやすいタイプだよなあ。うし、じゃ、僕は千尋帰るから」
 千尋寮、イヌ科の獣人たちが暮らす場所だ。その言葉を合図に、二人は別れた。
 煌は、実に二日ぶりに図書館へ向かう。
 月紫はいるだろうか。
 大きな図書館の自動ドアをくぐる。
 しかし、その姿は認められなかった。いつもの木の下や、その裏まで確認しても、いない。
「いない・・・・・・な」
 そういえば、いつか話したときに、普段は貸し借りをするだけでテラスでゆっくり読んだことはなかったし、ましてや今のように毎日は来ていなかったと聞いた気がする。
 さらにさらにそういえば、いつ帰るかも伝えてなかったような・・・・・・。
「・・・・・・行ってみる、か」
 独り言をつぶやいて、月虹寮へと足を向けた。