「メンクイ、ね・・・・・・好みは?」
 ベッドの布団にくるまって、互いの背中を向け合いながら、夜更けに二人は話している。薄ぼんやりとついた灯りに照らされて、まだまだ目は冴えていた。
 優牙のくぐもった声が届いて、煌は少し考えてから否定する。
「黒髪のイケメンではない」
「あ、そう。・・・・・・まだ、見つからないの?」
「あぁ・・・・・・うん。ダメだな。この前は犬の獣人の集落を探してきたけど」
 ダメだった、と続けた声は小さく落ちていって、彼まで届いたかどうかはわからない。
「ふぅん。大変だね。日華(にっか)ちゃん、どこ行っちゃったんだろね・・・・・・」
 少し眠たげに、掠れた語尾が残る。
「・・・・・・悪いな、重い話共有してさ」
「いや。そりゃ行方不明って聞いたから、びっくりしたけど──でも、あれまでにも日華ちゃんについては聞いてたし、教えてくれてありがたいよ」
「ありがたい?」
 意外な言葉に思わず聞き返す。
「一応会ったことはないけど、日華ちゃんって存在を知ったからね。僕の知らないところで行方不明になってるのもなんかだし」
「・・・・・・そうか」
「あっ」
 急に後ろでがばっと、優牙が起き上がった。
「なんだよ・・・・・・」
 煌もつられてのそのそと体を起こす。
「キーホルダー、今のうちにつけとこうかなと思って」
「なんで今なんだよ。あれか? 昼間の・・・・・・あいつと俺にくれたやつか」
 優牙は二夏と煌、二人にお揃いのキーホルダーを分けてくれたのだった。
 きっと、優牙は彼なりに、重く沈んでしまった空気を入れ替えようとしてくれたのだろう。
「そうそう。一個だと思ってたらなんか三個入っててさー」
 昼間、ホテルの売店で買ったらしいキーホルダーを出してきて、優牙はカバンにつけ始めた。ご当地の名物が可愛くデフォルメ化されたキーホルダーに小さな鈴がついた、定番のものだ。
「お前・・・・・・いいやつだよなほんとに」
 煌もごそごそと起き上がって、もともとついていたミニおみくじのキーホルダーの上に、優牙からのものをつけ始める。
「え、急に怖いって・・・・・・金目のものはなにも持ってないですほんとに」
「ほんとか? 飛んでみろ。ほら、ジャンプ」
「はっやばい、ポケットにキーホルダー買ったときのお釣りが入ってる」
「入ってんのかよ」
 思わず吹き出してしまい、二人で顔を見合わせて声を上げて笑った。
 少し落ち着いてから、優牙はごろりと布団に寝転がる。煌は横で座って小さく体を左右に揺らしながら、そちらを眺めていた。鮮やかな金髪が視界にちらちら映る。
「はぁ・・・・・・あー、二夏ちゃん可愛かったなー」
「あいつメンクイだぞ、ってこれ二回目だな言うの」
「うん。僕も二回目。結局、あの子の好み知らないの?」
「知らねーなー・・・・・・でもお前写真撮られてなかったよな?」
 煌もごろんと体を横にした。
「写真? 煌はいつも撮られてるの?」
「まあ・・・・・・行けば一回は」
「へー。じゃあ金髪黒目かな。いいなあ煌は。もてもてじゃん」
 優牙の声を聞き流しながら、布団に散らばった自身の金髪を弄ぶ。整った顔立ちと漆黒の瞳、一際な長身。
 金烏の特徴が強く現れた容姿。物心がついてから、一度たりとも、嬉しく思ったことなどない。