遠くない先祖に動物の血が混ざった、中途半端な存在である獣人たちの学園、彩羽学園(あやはがくえん)
 その広いグラウンドのボルテージは、最高潮に達している──体育祭の花形、クラス対抗リレーのバトンが、ついにアンカーに渡った。数日かけて開催され、今日、最終日までの競技で得た各クラスの点差はわずか、いつ勝敗がひっくり返ってもおかしくない状況である。
 ちらりと後ろを確認して、最初に走り出したA組のアンカーは人狼の優牙(ゆうが)、流れるようにバトンを受け取った。
 いけ、頑張れ、と、声援が飛び交う。
 勝負事に熱くなりがちな(こう)は、遠くで親友でもある優牙が走り出し、ぐんぐんと他クラスを引き離していく姿を最前列で見て爆発した。
「優牙ーっ、頑張れ行けえっ!」
 心の底から叫ぶ。優牙がこっちに走ってくる。高校生にもなって必死に応援する煌に触発されたのか、隣に座っていたよく知らない女子までもが口に筒状の手を当てて、
「優牙くん、頑張れーっ」
 優牙は、ちょうど煌の目の前を通る一瞬の隙に、ちらっと甘い微笑みを向けてきた。灰色のウルフヘアが揺れる。後ろから女子の黄色い歓声が聞こえた。
 うーんかっけ〜っ。高校生になったって、足が早ければかっこいいと感じるものだ。
 余裕のファンサをしてなお失うことのない勢いでゴールテープを切った。
 勝った。
 勝った・・・・・・っ!
「きゃあああああっ」
 周りに座る、同じクラスの子達が歓喜に悲鳴をあげる。まだこのクラスになって一ヶ月も経ってない。最初にして最高の一体感を覚える。
 煌は、考える隙もなく熱に突き動かされるがまま立ち上がった。隣の女子も悲鳴を上げ、煌も悲鳴を上げ、そしてその勢いのままハイタッチを交わした。まだ、お互いをよく知らないというのに。
 ハイタッチをして、互いの手のひらの感覚を確かめて、初めてその存在に気づいたかのように顔を見合わせる。
 初めて、彼女の顔をちゃんと見たかもしれない。
 さらりと流れた、白銀のロングヘア。若干赤の混ざった瞳。おとなしげな風貌は、先ほどまでの興奮を残して少しだけ紅潮している。なんの動物なのか、すぐに見当はつかない。
 あ、と気まずげな雰囲気が流れたのも束の間。
 どちらからともなくふふっと微笑みを漏らしたのだった。