【手の中の月】

生きよう。誰にもわからない自分の最後の日まで。
誰だって、生きたい。そう言ったっていい。誰かの死にたいって気持ちを僕は否定したくないから。ちゃんと生きたいって言うんだ。
 もう可憐は、僕の一部で、僕も可憐の一部だ。
生き物のすべては自分の意思じゃ生まれてはこられない。
だからこそ自由に最後までを生き抜く。
せっかく生まれてきちゃたんだから。死んでもいいって思えるくらいの夢中になれる何かと出会いたい。僕にとってそれが何か、今日もその答えを探すよ。今日見つけられなかったら明日もその次の日も、ずっと探すから、この命が尽きるまでに必ず見つけるって約束する。
僕は鏡の前に立ち胸からヘソの下まである手術跡を、愛おしく指先でなぞった。
そして鏡に映る自分にキスをした。
可憐が言っていたように、自分を一番大切にしようと思った。それは彼女を一番大切にすることと一緒だと思ったから。
死んでもいいと思うくらいには好きだった。でも、これからは生き抜いて君を愛するよ。
仕事に行く途中、空を見上げたら、昼間なのに白い月が見えた。僕はその月に手を伸ばし、片手で握り潰した。

END