「リトワ。いったいどうして命令を聞かなかったんだ?」
“焼き立て屋”のエントランスから食堂に通じる廊下でアマトに声を掛けられた。周りには他の戦闘員もいる。
俺はこの日、独断で飛び出した。RPC―7を被弾したぺしょぺしょが、三人とも逃げ出したから。こっちに来ないのなら、壁役はいなくなっても問題ないはずだ。だから飛び出した。
「なにか問題でも? おかげで3人も連れ帰ることが出来たでしょう」
パンコッペナイフで次々に切り伏せ、三人のぺしょぺしょを捕獲した。作戦通りではなかったにせよ、俺が貢献したことに間違いはない。
「がら空きだった左舷から新しいぺしょぺしょが現れたらどうするつもりだったんだ」
「知りませんよ! そんな『かも知れない』ばかり気にしていたら、なにも出来なくなりますって! それよりも結果を見てくださいよ。俺の独断で、0が3になったんですよ? どっちが“焼き立て屋”にとってプラスですか?」
アマトは目尻をグッと上げて睨んできた。
「君の言動は、我々のチームワークを乱す。前線から外れてもらうよ」
「はあ!? なんですかそれ! おかしいでしょう! 俺が一番コッペパンを上手く扱えるのに!」
「自惚れないでくれ。コッペパンの焼き方もわからない君が、そんな言葉を口にする権利はない」
言い争いのさなか、にわかにどよめきが起きた。声を出したのは戦闘員たちだった。
そちらに目を向けると水溜りのようなものが床の上を移動していた。どこかから雨が染み出して床を濡らしているのかと思ったが、そうではない。水溜りが独立して移動している。床の上を滑るようにして。そしてそれが戦闘員の前で止まると、突然ゲル状の長い手のようなものが飛び出して足を掴み、彼をぺしょぺしょにしてしまった。
「な!?」
隣に居た戦闘員が固まる。
「貸せ!」
パンコッペナイフを奪いざまに投擲《とうてき》。水溜りに当たると、たちまち収縮。水の淵が中心に集まりだして、ゲル状に固まった。
みんな驚きゲル状のものから距離を取る。アマトはぺしょぺしょになった戦闘員にコッペパンを食らわせて治療をしていた。
俺はゲル状のそれに向かって、コッペガンを撃った。ヒットしたことで、さらに固形化が進む。他の面々も持っていた武器で次々にコッペパンをぶち込む。
固形化が進むゲルは逃げるようにして出口へと向かう。俺はそれを追った。
「待て! リトワ!」
声を背中に聞きながらゲルを追いかけ、さらにコッペパンを撃ち込む。
徐々に人型に成っていく。水溜りのときはなにかと思ったが、触れた人間をぺしょぺしょにする特性や牛乳寒天のようなぷるぷるさを持った肌は、ぺしょぺしょに違いなかった。
このままでは外に出てしまう。その前に片を付けなければ。
追っていくうち、どこか見覚えのあるうしろ姿だと思ったが、今はぺしょぺしょに一発撃ち込むのが優先される。
狙うなら外に通じるドアの前。扉を開ける都合確実に減速する。想定通りぺしょぺしょは立ち止った。俺はコッペガンを構える。ドアノブに手を掛けて振り返った彼女は、ハルジオンみたいに控えめな笑顔を零した。照準がぶれて、大きく狙いを外してしまう。
「ら、な……」
俺の言葉を袖にするように、彼女は踵を返して雨の中に溶けて行った。
彼女に撃ち込むコッペパンは、もうなかった。
“焼き立て屋”のエントランスから食堂に通じる廊下でアマトに声を掛けられた。周りには他の戦闘員もいる。
俺はこの日、独断で飛び出した。RPC―7を被弾したぺしょぺしょが、三人とも逃げ出したから。こっちに来ないのなら、壁役はいなくなっても問題ないはずだ。だから飛び出した。
「なにか問題でも? おかげで3人も連れ帰ることが出来たでしょう」
パンコッペナイフで次々に切り伏せ、三人のぺしょぺしょを捕獲した。作戦通りではなかったにせよ、俺が貢献したことに間違いはない。
「がら空きだった左舷から新しいぺしょぺしょが現れたらどうするつもりだったんだ」
「知りませんよ! そんな『かも知れない』ばかり気にしていたら、なにも出来なくなりますって! それよりも結果を見てくださいよ。俺の独断で、0が3になったんですよ? どっちが“焼き立て屋”にとってプラスですか?」
アマトは目尻をグッと上げて睨んできた。
「君の言動は、我々のチームワークを乱す。前線から外れてもらうよ」
「はあ!? なんですかそれ! おかしいでしょう! 俺が一番コッペパンを上手く扱えるのに!」
「自惚れないでくれ。コッペパンの焼き方もわからない君が、そんな言葉を口にする権利はない」
言い争いのさなか、にわかにどよめきが起きた。声を出したのは戦闘員たちだった。
そちらに目を向けると水溜りのようなものが床の上を移動していた。どこかから雨が染み出して床を濡らしているのかと思ったが、そうではない。水溜りが独立して移動している。床の上を滑るようにして。そしてそれが戦闘員の前で止まると、突然ゲル状の長い手のようなものが飛び出して足を掴み、彼をぺしょぺしょにしてしまった。
「な!?」
隣に居た戦闘員が固まる。
「貸せ!」
パンコッペナイフを奪いざまに投擲《とうてき》。水溜りに当たると、たちまち収縮。水の淵が中心に集まりだして、ゲル状に固まった。
みんな驚きゲル状のものから距離を取る。アマトはぺしょぺしょになった戦闘員にコッペパンを食らわせて治療をしていた。
俺はゲル状のそれに向かって、コッペガンを撃った。ヒットしたことで、さらに固形化が進む。他の面々も持っていた武器で次々にコッペパンをぶち込む。
固形化が進むゲルは逃げるようにして出口へと向かう。俺はそれを追った。
「待て! リトワ!」
声を背中に聞きながらゲルを追いかけ、さらにコッペパンを撃ち込む。
徐々に人型に成っていく。水溜りのときはなにかと思ったが、触れた人間をぺしょぺしょにする特性や牛乳寒天のようなぷるぷるさを持った肌は、ぺしょぺしょに違いなかった。
このままでは外に出てしまう。その前に片を付けなければ。
追っていくうち、どこか見覚えのあるうしろ姿だと思ったが、今はぺしょぺしょに一発撃ち込むのが優先される。
狙うなら外に通じるドアの前。扉を開ける都合確実に減速する。想定通りぺしょぺしょは立ち止った。俺はコッペガンを構える。ドアノブに手を掛けて振り返った彼女は、ハルジオンみたいに控えめな笑顔を零した。照準がぶれて、大きく狙いを外してしまう。
「ら、な……」
俺の言葉を袖にするように、彼女は踵を返して雨の中に溶けて行った。
彼女に撃ち込むコッペパンは、もうなかった。