竜堂(りゅうどう) 章太郎(しょうたろう)は葵の従兄にあたる男で、竜堂家の時期当主になるのではと言われている。
 龍神様と離縁したあと、葵は章太郎のところに嫁ぐことが決められていた。葵と十ほど年の離れている章太郎には既に正妻がいるので、葵は次代の龍神の花嫁を産むための側女として娶られるのだ。
 その婚姻が決まったのが、ちょうど一年ほど前。シノがキヨの代わりに葵の世話係になったばかりの頃のこと。
 そんな状況だったから、葵にはシノが章太郎によって送り込まれてきた内通者のように思えてしまってならない。
 離縁後の夫となる章太郎とは彼が美雲神社に参拝にきた際に数回顔を合わせたこともある。だが、葵は彼のことがあまり好きではなかった。
 三つの頃に龍神様の花嫁となった葵は、結婚は家が決めることで、個人の好き嫌いでどうにかなるものではないことはもちろんよくわかっている。
 けれど……。章太郎のところに嫁いだあとのことを考えれば気が重く、葵は章太郎に嫁ぎ直すくらいなら、本当に存在するかもわからない、ひとつ目の龍神様の妻でいたほうが幾分もマシだと思うのだ。
「少し庭を散歩してきます」
 葵は座っていた縁側から腰をあげると、ため息を吐きながら民家の外に出た。