見はどこにも変化がないの。人格というか、中身だけがとにかく変なのよ。ねえ、呉屋くんはどう思う?」

 彼女にどう思うかと訊かれ、渉はまたも返答に窮した。大人だって、何かのきっかけで変わることはある。良くも悪くも、外からの刺激に反応しないわけにはいかないのだ。

 そのことを正直にあかりに伝えた。しかし彼女は納得いかないようで、頭を振った。

「私だって、呉屋くんの言っていることはわかる。でも、おかしいのは変わったことそのものじゃなくて、どちらかといえば変わるタイミングの方なの」

「タイミング?」

 と、渉は口に出した。それこそタイミングなんて、唐突に訪れるものではないか。

「だって、今言った変化は全部、ある日急に、一斉に起こったの。いくらなんでもおかしくない?」

「それは確かに、変かも……」

 あかりの抱いた違和感を単に気のせいだ、と推察していた渉だったが、その一言で流石に眉をひそめた。

 言葉遣い、色や食べ物の好み、就寝時間に入浴時間が一度に変更されるものだろうか。

 日々の生活の中で、人々は昨日より明日を良くするために活動している。渉だってそうだし、外で声を張り上げている部活生たちだって同じだ。

 だが、そのために用意する変更点は一つや二つに留まるだろう。

 どんな本を読んでも、テレビ番組を観ても、今までの自分自身の行いを全てなかったことのようにして再スタートを切れるほど、人間は効率的な生き物ではない。

 健康のため。明日の仕事のため。どんな理由であったとしても、急いで五つの修正を施せるものだろうか。

 石嶺あかりの両親について思案していると、ふと渉の頭に新たな疑問が浮かんだ。

「それってさ、いつからなの?」

 ある意味で一番大切な、肝になる部分だった。

 これであかりが「昨日家に帰ってきてから」などと話せば、それは彼女の両親が何かに備えて一時的に行った行為だろう。

 言葉遣いに関しても、仕事のストレスが無視できないところまで来ている、という説明もできる。

「そういえば、いつからだっけな……」

 腕組みをして、天井の隅を見上げるあかり。答えを出すのに、それほど時間は必要なかった。

「お父さんとお母さんの二人で、県外に旅行に行ったことがあったの。で、旅行から帰ってきてからだった」