――星河と想いが繋がった運命のあの日から二日後。

 私は新しい父親と生活を共にする為に母親と一緒に九州へ向かった。
 飛行機の窓から見えた景色は未来へ向かっている。
 父親がいない生活が長かった分、期待より不安の方が大きかった。でも、広大な敷地から眺めていたら不安なんてすぐに吹っ飛んだ。
 星河と会えなくなって寂しいけど、同時に夢も見つかったからこれからはその夢を叶えるために頑張っていこうと思う。


 新しい学校ではすぐに友達が出来た。
 「彼氏はいるの?」という問いかけに自信を持って頷く私。何故なら、星河が彼氏でいることを誇りに思っているから。
 そして、私も誇りに思ってもらえるように夢に向かって勉強を始めた。

 街の洋菓子店でショートケーキを見ると思い出す。毎日がドラマチックに包まれていたことを。

 あの時はもっと早く気持ちに気づいていれば、今より沢山幸せな時間を過ごしていただろう。そう考えるだけで少し悔しい。
 だから、いまこの瞬間も小さなドラマチックを見逃さないように日々感謝しながら生きている。


 ――そして、二十二歳。
 大学を卒業してから都内の飲食系のコンサルティング会社に就職した。
 私の夢はフードコーディネーター。これは、郁哉先輩と夢について語っている時に思い浮かんだ。
 趣味は料理の写真を撮ってインスタにアップすることだったから、将来的には星河が作ったスイーツを世に広めていこうと思った。

 私と星河の夢が重なったあの日、先輩からの告白を断った。
 確かに彼は文句のつけどころがないほどステキな人だったけど、私が思い描いていたドラマチックとは違っていた。


 星河は専門学校卒業後、洋菓子店に就職。
 メッセージで定期的に送られてくるスイーツの写真を見て、パティシエコンテストに打ち込んでいた当初を思い出しながら顔をほころばせていた。
 でも、写真を見る度に会いたい気持ちがパンパンに膨れ上がって、バイトの給料を航空券代とホテル代に引き換えにして何度も何度も会いに行った。


 ――でも、今日からはそれが必要ない。
 何故なら両親と離れて、五年ぶりの都内で一人暮らしをすることになったから。
 キッチンが広めの1Kマンションを選んだのは、いつでも仕事が出来るように。
 今日は午前中に荷物の搬入が終わって、いまは片付け中。
 夕方からは、星河がお祝いにかけつけてくれる。そう思うだけで自然と鏡を見る回数が増えた。


 彼とは四ヶ月ぶりの再会。
 会いたくて、会いたくて……。
 何をしていても落ち着かないし、会ったらどんな話をしようかとか考えている。
 でも、一番大切なことは……。


 ピーンポーン……。
 インターフォンが鳴ると、待ち望んでいた耳が荷物を片していた身体を起こした。
 玄関に走り向かって扉を開けると、そこにはホールケーキの箱を持った彼が。
 会う直前まで第一声は何て言おうかなとか考えてたけど、いざ顔を見たら考えるより先に彼の首に両手を回していた。

 そして耳元で言った。
 五年前のあの日に二人で約束した”あの言葉”を……。



【完】