――数日後の午前中。俺は叔父さんの店の前に立った。
 火事を起こしたあの日からここへ来るのは久しぶりだ。火事で厨房は丸焦げになってしまったけどフロアに損傷はない。
 だから、垂れ下がっている白いロールカーテンの隙間から店内の様子を見つめた。
 すると、背後から声が届いた。


「もしかして、そこにいるのは星河?」


 呼びかけに振り返ると、そこには杢グレーのスーツを着た男性と一緒にいる私服姿の叔父さんがいる。


「叔父さん……」

「やっぱり星河だったか。今日はどうしてここへ?」

「あの後、店がどうなったか気になって……」

「店を心配してくれてありがとう。実はまだ手つかずでね。……お前こそケガの様子はどう?」

「痛みはほとんど引いてきたから絆創膏で平気になった。皮膚科から処方してもらった薬は塗ってるけど」

「大事に至らなくて良かった。実は今から保険屋さんに店内の様子を見てもらおうかと思って」


 俺はそこで隣にいるスーツの男性の正体が判明して軽く頭を下げた。
 すると、相手も頭を下げる。


「そうだ! 叔父さん、パティシエコンテスト優勝したよ。報告するのが遅くなってごめん」

「おめでとう。流石だね! 僕は優勝すると思ってたよ」

「ありがとう。でも、気持ちが落ち着いてきたら店のことばかり考えていて……」


 店を眺める度に思い出す。従業員みんなと楽しく働いていた頃や、厨房でケーキを作っていた頃や、常連客と笑顔に包まれていたこと。それに、ここがまひろとの距離が一番近い場所だったことを……。
 叔父さんは俺が身内だから店が比較的空いてる時間帯に厨房を使わせてくれて、勤務後もケーキ作りの作業が落ち着くまで厨房を掃除しながら見守ってくれてた。
 この場所は、人も場所もかけがえがなかった。
 だから、壊してしまったことが余計に苦しい。


「事故だったんだよ。だから、自分を責めないで」

「本当にごめん」

「僕も任せっきりにしてしまった原因があるし、店ならまた一から頑張ればいい。それに、リニューアルオープンしたら常連さんもきっと戻ってくるだろうし。心配しないで」


 俺は恵まれている環境に感謝した。
 叔父さんはいつも前向きで夢を応援してくれる存在だ。
 そして、まひろも同じ。俺が一人前のパティシエになることを心から願っている。
 いつも後ろ向きなのは俺だけ。
 だから、これからは不器用でもいいから少しずつ前向きになれるように頑張っていこうと思った。