――私は郁哉先輩と十六時にお別れして、そのまま星河の家に向かった。
この時間になっても連絡がなくて気が気じゃなかった。
電話をかけても一切繋がらないので星河の部屋で待たせてもらうことに。
連絡がないってことは、もしかしたら入賞出来なかったのかな。
でも、あのクリスマスケーキは洋菓子店のショーケースに並んでいてもおかしくないほど出来栄えが良かったのに。
私は気を揉んだままベッドに腰をかけていると、十七時過ぎに玄関の開閉音が聞こえた。
そこでおばさんが何かを伝えてるような声が玄関から届いてから数秒後に彼が部屋の扉を開けた。
私はすかさずベッドから立ち上がって星河の前に立った。
「おかえりなさい。どうして連絡くれなかったの? コンテストの結果がずっと気になってたんだよ」
「…………」
荷物を置く彼を追いかけるように伝えたけど、普段と様子が違う。
もしかしたら、本当に落選してしまったのでは……。
「一日中連絡を待ってたのに、全然連絡して来ないから心配し……」
「恋人でもないし、連絡する義務はない」
彼は背中から素っ気ない態度でそう返事をした。
私は心配が跳ね除けられたような気になって頭にカッと血が上った。
「確かにそうだけど、私たち幼なじみでしょ。それに、毎日応援してたことだって知ってたじゃない。私は丸一日コンテストの結果のことで頭がいっぱいだったんだよ。それに、一昨日ケガした指だって大丈夫だったかなとか……」
「都合のいい時だけ幼なじみを盾にするのやめてくれない?」
「えっ」
「幼なじみなら心ん中に土足で入ってきていいルールなんてあるの?」
「星河……」
「帰って。彼女がいる男の家に簡単に上がり込むなよ。こーゆーの迷惑だから」
昨日とはまるで別人な様子に言葉を失った。
普段なら嬉しいことは一番に話してくれたのに今は違う。
その間、彼の心の中でどんな変化があったのだろうか。
「迷惑……かな……。昔からいつも行き来してたのに急にそんな事を言われても……」
「自分でもわかってんだろ。距離をとろうと提案してきたのはお前だし。少なくとも俺は少しずつ努力してきた」
「何かあったの? 今日は別人みたいだよ。もしかして、何か嫌なことでも……」
「別に。コンテストは優勝したし、ぼたんともうまくいってるし、嫌なことなんて一つもない。ただ、お前のそーゆーずうずうしさが面倒くさいと思ってるだけ」
「ずうずうしいって酷くない? だって、私たちは昔からきょうだいのように家を行き来……」
「でも他人だよな。俺には彼女がいるし、お前にも憧れの郁哉先輩がいる。それぞれ別々の方向を向いてんだから、もう俺のテリトリーに入ってくんなよ」
彼はまるで別人のような冷たい表情をしたまま私の腕を掴んで部屋から叩き出した。
何故突然こうなったかわからない。
ただ、いまのままだと先日のように心が行き違いになってしまうと思って部屋の扉を拳で思いっきり叩いた。
ドンドンドンドンッ!!
「星河! ちゃんと話そう。何があったかわからないけど、以前みたいに話し合って解決していこう」
「…………」
「星河っ! 星河っっ!!」
「…………」
何度呼びかけても彼は部屋から出てこない。
我を忘れて叫んでいたせいか、異変に気づいた母親がリビングから私の元へやってきた。
「どうしたの? 星河とケンカでもしたの?」
「あ……はい……。でも、大丈夫です……」
私は真っ赤に染まっていた顔をおばさんに見られたくなくて、そのまま走って玄関を飛び出した。
どうして態度が急変したんだろう。
その理由がわからない分、苦しくて悲しい。