――私は今朝から何度もスマホをチェックしていた。
昨日星河たちのキスシーンを見てから気分は冴えないけど、今日は待ちに待ったパティシエコンテスト。
だから、星河からいつ連絡があってもいいようにスタンバイしていた。
今日は昼から郁哉先輩とデート。
本来なら午後からバイトだったけど、それがなくなって時間に余裕ができたと先輩に話したら、先日約束したイタリアンのお店に行こうということになった。
あの郁哉先輩からお誘いされるなんて夢のまた夢くらい嬉しいはずなのに、頭の中は昨日から星河のことで埋め尽くされている。
私たちはレストランでメニューを開いた。
割と早めに注文するものが決まったので、スマホを手に取ると……。
「まひろちゃん、やけにスマホばかり見てるけど今日なにかあるの?」
先輩からのまさかのご指摘に動揺した。
「えっ?! べっ、別に何も……」
「そ? 注文するもの決まった?」
「えっと……、ボンゴレロッソ。先輩は何にします?」
「俺は有機野菜のペペロンチーノ」
「あっ、いいですね。私もさっきから気になってました」
「俺たち気が合うかもね」
「えっ」
「すみませーーん! オーダーお願いします」
意中の人とデートをしているのに他の男性のことを考えてるなんて最低だ。
わかってはいるけど、星河が今日という日のために練習してきた姿を長々と見てきた分進捗状況が気になっている。
先輩があまりにも美しいから周囲の女子からの目線をかき集めている。
それに気づきつつも、星河の事ばかりが気になっていてスマホを触り続けていた。
でも、連絡は入らない。
いまは昼休みの時間なのに、メッセージは一文字も送られてこない。
もしかしたら、会場ではスマホ禁止かもしれないし、お昼時間をとらずにぶっ通しで作業を進めているのかな。
……ダメダメ。いまは郁哉先輩と二人きりの時間だから幸せを堪能しなきゃいけない。
料理が到着してテーブルに並べられる。私はここからが本領発揮の時間に。スマホのカメラに収まるようにお皿を並べ直してからスマホカメラを起動させると、先輩は食事を始めた。
「先輩、料理が来たばかりなのに、もう食事を始めるんですか?」
「まひろちゃんこそ食べないの? 早くしないと冷めちゃうよ」
「料理の彩りとか、目で楽しまないんですか?」
「もう楽しんだよ」
「えっ、そんなに一瞬……。なかなか見れる機会がないから、盛り付けのこだわりや、作ってる人の想いとか知りたいじゃないですか」
「でも、料理は温かいうちに食べる方がいいと思う。提供する側もそれを願ってるんじゃないかな」
「そう、ですよね……」
私たちは意見が食い違ってしまったけど、どちらも正解だ。ただ、認識が違うだけ……。
これがもし星河だったら……と思ってしまう、間違いだらけの自分がここにいる。