――十二月六日。
 俺は昨日、まひろの家で自分でも驚くくらい理性を失っていた。
 お陰で無理やり押し殺していたまひろへの想いがパンクしそうになってしまった。
 あの時、電話がかかってこなければ彼女は何て答えたのだろう。
 それに、俺はどんな返事をしたのかな。あの瞬間のことを考えるだけでも頭がパンクしそうになる。


「星河、クリスマスはどう過ごす?」

「えっ」

「初めて二人で迎えるクリスマスだから、少しおしゃれをしてどこかお出かけしたいよね」


 ――俺はいま、ぼたんと中庭でランチをしてる最中だ。
 それなのに、昨晩の件もあって頭の中はまひろ一色に。
 これではいけないと思って、目を覚ますように膝をつねった。


「……ごめん、クリスマスはバイトとパティシエコンテストがある」

「えーーっ!! コンテストの日に会えないのは仕方ないけど、バイトなんて休んじゃえばいいのに」

「無理。クリスマスディナーがあるからアルバイトは基本全員出勤なの」

「じゃあ、バイト後は?」

「閉店後はケーキ作りに専念したいから時間は使えない」

「嘘でしょ。恋人なのにクリスマスに会えないなんて辛すぎる。だって、かなちゃんは彼氏とクリスマスに……」


 元々彼女にいい返事は期待していなかったけど、やっぱり想定内に。
 だけど、俺には俺の予定があって、彼女の期待に応えることが出来ない。


「ごめん。年に一度しかない大事なコンテストだし、将来がかかってるからそれだけの時間は作れない」

「クリスマスも年に一度しかない! クリスマスに会えないなんてあり得ないよ」

「ぼたん……」

「じゃあ、私がバイト先まで行く。お客さんとして」


 俺は深い溜息をついた。
 彼女はどうしてそこまでクリスマスにこだわるのかわからない。しかも、繁忙期に店に遊びに来られても対応できるわけがない。
 それどころか、まひろと顔を合わせたらまた……。


「それだけは絶対やめろ」

「えっ」

「その代わり、別の日に埋め合わせするよ。プレゼントも用意するし、二人でたっぷりお祝いしよう。……それでいい?」

「……」


 彼女はうんともすんとも言わずに暗い顔をした。期待外れな返事を不服に思ったのだろう。


 ――こんな時、まひろだったら何て言うかな。
 きっと、「コンテストの方が大事だから仕方ないよね。頑張って!」と言って応援してくれるだろう。
 絵馬やお守り。それに、間近でお菓子作りを見ている分、ぼたんとは考え方が違うだろう。

 俺はこんな時さえまひろを思い出してしまう。それどころか、無意識に比較している。
 それがダメだとわかっているのに、頭からまひろを切り離すことができない。
 弱気な自分から卒業しなきゃいけないのに、度重なる事件が未来の足かせになっている。