「星河の好きな食べ物って何かな」


 ――ある日の授業の合間の休み時間。
 櫻坂さんは、私の目の前の空いてる席に座ってそう聞いてきた。
 こうやって彼女と二人きりで話すのが初めてだから正直戸惑った。


「えっ」

「鶴田さん……、ううん。私も星河みたいに”まひろ”って呼んでもいい?」

「あ、あっ、うん。いいよ」

「私もぼたんでいいから」

「うん。じゃあ、そう呼ばせてもらおうかな」


 彼女の急接近に驚いた。
 しかも、いきなりお互い呼び捨てに?
 もしかしたら、先日のわだかまりを解消する目的なのかな。


「まひろって星河と幼なじみだから、食べ物の好みなら何でも知ってると思って」

「ん〜、おにぎり……かな。あんまり凝った料理が好きじゃないから」

「へぇえ〜〜!! 具は何が好きなの?」

「意外に昆布! 三つ昆布を作ってあげた時は何も言わなかったよ」


 私は話のノリでつい過去の自分を語ってしまった。
 それが、彼女の闘争心を湧き立てることになるとは思わないまま。


「そっかぁ、まひろはおにぎりを作ってあげたんだね……」


 ぼたんが一瞬暗い顔を覗かせたから焦って反論した。


「えっ……、えっと、昔ね! 昔!!」

「ん、わかってるよ〜。今は私と付き合ってるから作る訳ないよね」

「うん、もちろん」


 星河の話のせいか、彼女のテンションが上下する度に気を使ってしまう。
 もしかしたら過剰に意識してるだけかもしれないけど。


「そういえば、星河のスマホの待ち受け画面は二人一緒に写ってる画像だった。本当に仲良しなんだね」

「えっ、それ……どこで見たの?」


 やべっ……。
 自分から火種を作ってしまった。


「あっ、ええっと……。星河とはバイト先が一緒だからふとしたタイミングで」

「そうなんだ。星河はまひろとバイト先が一緒だなんて言ってなかったから」

「言う必要がなかったんじゃないかな? でも、画像を見た時は驚いた。星河はスマホを持ち始めてからスイーツ以外の画像にしたことがなかったから」


 言った後に爆弾発言を暴発している事に気づいた。
 幼なじみとはいえ、何でも知ってるぞみたいないいっぷりになってたし。これじゃあ、ぼたんに嫌われちゃうよね。
 私はちらっと上目で彼女を見ると、ニコリと微笑み返してきた。


「あの時は星河が同じ待ち受け画面にしようって提案してきたんだよ」

「えっ、星河が?」


 ”意外”だと思った。
 スイーツヲタの星河が自分からそんなことを言いだすなんて。


「うん、そうだよ。それが何か?」

「……ううん、幸せそうで羨ましい」

「うん! 幸せ。まひろちゃん、これからも私たちの恋を応援してね! もっともっと頑張るからね!」

「あ、うん……。応援するね」


 星河はまひろと付き合い始めてから、今までの星河じゃなくなっちゃったのかな。
 スイーツと同じくぼたんのことが好きなのかな。だから待ち受け画面を変えたんだよね。

 でも、そう考えてるうちに胸に針を刺したような痛みに襲われた。