――翌朝、私は噂話に包まれながら教室に入った。
 最初は私を見てヒソヒソ言ってるなぁ〜程度にしか思っていなかったけど、後にそれが星河が私をおんぶして保健室に連れて行った件だと知った。
 クラスメイトはみな星河と櫻坂さんの交際を知っている。その分、私に当てる目は冷たい。


 そして、正午。
 私はお昼休みに櫻坂さんの友達のかなちゃんに、ひと気のない屋上に呼び出された。
 その斜め後ろには俯き気味の櫻坂さんがいる。
 今朝の件もあって、呼び出された時点で話の内容は察していた。だから、ある程度心の準備が出来ている。


「鶴田さんは高崎の幼なじみなのはわかるけど、ぼたんが隣にいる時にあーゆー事するのやめてくれない?」

「ね……ねぇ、かなちゃん。私なら平気だからいいよ」

「良くないよ。ぼたんも思ったことははっきり言わないと損するよ。高崎が鶴田さんをおんぶして嫌だったんでしょ? 教室に残ってた人がみんな誤解したよ?」

「かなちゃん、いいってば! もう過ぎた話だから……」


 私は昨日の件で櫻坂さんを傷つけてしまったのは言うまでもない。
 それが故意的じゃなくても、誰もが彼女を哀れに思うだろう。
 確かに他の女の子がケガをした途端、自分の彼氏が真っ先に駆け寄っていったらショックだよね。


「ぼたんは優しすぎるよ。嫌なら嫌ってちゃんと自分の想いを伝えないと」

「でも、鶴田さんはわざとケガをした訳じゃないし、星河は幼なじみだから少し気にかけただけだし」


 私が何も言わなくても間接的に責められたような気になった。
 確かにあの場で星河のおんぶをもっと拒否すれば誰も傷つかずに済んだ。痛みなんていくらでも堪えられるから、何ともない顔をしてればよかった。それなのに、彼の好意に甘えてしまった。 
 私は申し訳なく思って二人に頭を下げた。


「ごめん。確かに自分の彼氏が他の女をおんぶしてたら嫌な気持ちになるよね。私はそこまで気が回らなかった。……次からはもっと注意するね」


 素直に謝った。昔の正解は、今の不正解になっているから。
 確かに配慮が掛けていたし、星河たちの交際を心から受け入れなければならない立場だ。

 すると、かなは「あーあ、最悪」と言ってそっけない態度で去って行った。これ以上返す言葉がなくて口を噤んでいると、櫻坂さんは言った。


「かなちゃんは悪気があって言ったわけじゃないの。だから、気にしてないからね」

「あ、うん。ありがと。……私こそ配慮が足りなかったみたい」

「ううん、こっちこそ嫌な想いをさせてごめんね」


 ――櫻坂さんはいい子だ。
 嫌な想いをしても、私たちの関係を理解しようとしている。だから星河は彼女を恋人に選んだのかな。

 確かにそうだよね。星河は幼なじみだけど、もう今まで通りじゃないんだね。
 私たちが接近すると嫌な思いをする人がいる。星河が心配するからつい甘えてしまったけど、彼女の気持ちまで行き届かなかった。幼なじみの悪いクセは、これから少しずつ直していかないとね。