――十一月二十五日。
 俺がぼたんと交際してから二週間が経過した。
 関係は順調で、今日は下校後に一緒に電車に乗って二つ先の駅の街に出た。もちろん、新しい恋を楽しむ為に……。


 最初はゲーセンに行って、UFOキャッチャーで彼女が欲しいと言っていたぬいぐるみを取れるまで小銭を注ぎ込んだ。ケーキを作るのは得意な方だけど、こうやって外で遊ぶのは苦手。ケーキ作りに時間を割くことが多くてこういう遊びをしてこなかったから。

 それでも彼女に喜んでもらおうと思って、出来る範囲で願いを叶えた。
 次に向かったのは、インスタ映えするおしゃれなカフェ。
 店内装飾はもちろん、スイーツのバリエーションも豊富で勉強になる。あいつに見せたら喜ぶんだろうなと思うくらいに……。


「せっかくおしゃれなカフェに来たから二人で写真撮ろうよ!」

「オッケー」


 彼女がカフェのおしゃれなインテリアをバックにしてスマホのカメラをインカメラに切り替えると、俺はその隣の席へついた。
 ぼたんは今どきのおしゃれな子。メイクも髪型もこだわっていて、明るくて元気だし、かわいいものがあればすぐ食いつくし、流行しているものを見つければすぐ手に取るタイプだ。

 パシャ……。
 彼女はスマホのシャッターボタンを押した後に撮りたての画像を待ち受け画面に設定した。


「よく撮れたと思わない? いま撮った写真を星河にも送るね」

「うん、いいけど」


 俺はスマホを取り出してLINEを開いた。
 すると、隣でその様子を見ていたぼたんは言った。


「星河の待ち受け画面ってスイーツなんだね。女子みたいでかっわいい〜!」

「あぁ、これ? 先日作ったものをただ見返すために設定しただけ」

「あっ、そうなの? 別に愛着が湧いてる訳じゃないんだ。ねねっ! それならちょっとスマホ貸して」

「えっ……」


 返事をする前にスマホを奪われると、彼女はサクサクと操作してからスマホを返した。
 画面を見ると、先ほど撮ったばかりの自撮りした画像が待ち受け画面に設定されている。


「えへへっ! 待ち受け画面変更完了! 今日からは私達の待ち受けはおそろいだね!」

「……あ、うん」

「私、こうやって彼氏と自撮りした写真をお互い待受画面にするのが夢だったんだ」


 半強制的に二人の写真を待ち受け画面に設定されてびっくりした。恋人って他の人もそんな感じなのかな。彼女には『先日作ったものを見返すため』とは言ったけど、本当はまひろに渡しそびれたスイーツを載せていただけ。
 ……だから、別に変えられても問題ない。
 

 帰り道、俺はカバンから個包装のクッキーを取り出してぼたんにお土産として渡した。
 すると、彼女はわぁっと表情を明るくして喜ぶ。


「わぁ〜っ! すごい上手! 美味しそうなクッキーだね!」

「幼稚園の頃から作ってるからね。よかったらひと口食べてみて」

「あ、うん……」


 彼女は俺の頷きを合図に袋を開けてクッキーを口の中へ。
 三、四回咀嚼(そしゃく)してから言った。


「美味しい……」

「改善点とか、見栄えの要望とかあるかな」

「ううん、パーフェクトだよ!」

「えっ……。じゃあ、このクッキーは洋菓子店に並べられる?」

「もちろん! 満点、満点!」


 彼女は俺に喜んでもらうためにそう言ったと思うけど、なんかもう少し……。
 でも、過去への想いを断ち切らなきゃいけないし変わらなきゃいけないから気持ちを切り替えた。


「俺、スイーツを食ってる人のほっぺって好き」


 先日まひろにしたように、ぼたんのほっぺも両手で掴んでびよーんと伸ばした。もちろん心の距離を少しでも近づけるために。
 ところが、彼女はサッと一歩うしろに下がって苦笑いを浮かべる。


「ごめん……。私、変顔とかあまり好きじゃなくて」

「そっか。ごめん。配慮なくて」

「ううん、こっちこそごめんね!」


 彼女の困惑した様子を見た途端、後味が悪くなった。俺は無意識のうちにまひろの幻影を映し出しているのかな。そう思っただけで諦めの悪い自分に嫌気が差した。早く心のなかにケリをつけないと自分が苦しくなっていくのがわかっているのに……。