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 ——ねえ、右京さん。つぎの呪詛返しの旅には、おれもつれてってくれる?

 永久家の子どもはある程度の年齢になると、実践で経験を積むため、呪詛返しの旅に同行することになる。大抵の子どもは怖がって嫌がるのだが、天満からすれば、右京と一緒にいられるというだけで魅力的な旅だと思えた。
 しかし、当時五歳だった彼はまだ旅の経験がなかった。旅に同行できるのは六、七歳の、一般的には小学校に上がる辺りの年齢からという暗黙のルールがある。そのため天満は一日も早く旅に同行したいと言って、毎度のごとく右京にせかんだ。

 ——そうだなあ。次は京都か。さて、どうしようかなあ。

 右京は少しだけ意地の悪い笑みを浮かべて言った。連れていけ、連れていけと腰に纏わりついてくる天満に、思わず苦笑する。
 家の後継ぎである長男・太一は、もとより危険な旅の同行は許されていない。だが次男である獅堂、それから武藤家の兼嗣はすでに同行を許されており、二人が右京とともに旅立つのを、天満はいつも指を咥えて見送るしかなかった。

 ——このあいだも兼嗣といっしょに行ったんでしょ。あいつばっかりずるいよ。おれだって行きたいのに。

 右京はとりわけ、兼嗣のことを可愛がっているように天満には見えた。というのも、兼嗣は正妻の子ではないため、本家に住まう人間から冷たい待遇を受けている。それを庇うのはいつも右京の役目で、兼嗣は当然彼女に懐き、彼女もそんな(おい)っ子のことを少なからず甘やかしていた。

 ——心配しなくても、お前ももう少し大きくなったら嫌でも旅に駆り出されるさ。……次は京都の嵐山(あらしやま)で、八月の半ばか。ちょうど五山送り火(ござんのおくりび)が見られる時期だな。

 右京は部屋の壁に掛けられたカレンダーを見て言った。八月、とでかでかと書かれたページが開かれている。

 ——ござんの……?

 ——五山送り火。京都の山に大きな火を焚いて、ご先祖様の霊をあの世へ送るんだ。

 お盆の時期にこの世へと帰ってきた先祖の霊を、あの世へと再び送り出すための篝火(かがりび)。京都では夏の風物詩となっている。

 ——よし、天満。今度の旅は、私と一緒に来るか?

 そう言って、彼女は天満の小さな頭をくしゃりと撫でた。突然の申し出に、不意をつかれた天満はまさしく鳩が豆鉄砲を食ったような顔をする。

 ——えっ。ほんと? ほんとにいっしょに行っていいの!?

 願ってもない右京からの申し出。天満は途端に顔を輝かせて、全身を使って喜びを表現する。
 行き先は八月の京都、嵐山。ちょうどお盆の時期で、そこを流れる桂川(かつらがわ)では灯籠流(とうろうなが)しが行われる。そして川の上に架かる渡月橋(とげつきょう)からは、夜の景色に浮かび上がる五山送り火を見ることができる。

 右京と二人で行く、初めての旅。
 これが彼女との最初で最後の旅になるとは、このときの天満は露ほども思っていなかった。