「男として……というのは、後継ぎの問題があったからですよね?」
璃子は躊躇いがちに聞く。
「そうそう。頭の固い永久家は、未だに男性優位の思想が根強く残ってるからねぇ」
天満は我が家ながら小馬鹿にするように言った。
かれこれ数百年の歴史を持つ永久家にとって、家を継ぐのは長男が基本である。そして万が一、その長男に何かがあったときは次男が継ぐことになっている。
「俺たちの親父が長男として生まれたところまでは良かったけど、そこから何年もの間、次の子はできなかった。それから七年空いて、やっと生まれた待望の子が女の子の右京さんだったんだ。だから、もしも親父に何かがあったときは、女性である右京さんでは家を継ぐことができない」
「だから、彼女を男性として育てようとしたんですね」
それであんな風にかっこよく……と、璃子はどこかうっとりとした声色で呟く。
「永久家にとって、長男以外の子どもは、いわば長男の予備みたいなもんだからな。右京さんも途中までは男として育てられたけど、親父が自分の子を成した時点で、その必要はなくなった。しかも今回生まれた男子は、俺を入れて三人。兼嗣の野郎も入れれば四人だ」
「長男の太一さま。次男の獅堂さま。武藤家の兼嗣さま。そして、天満さま。……ですが、次男の獅堂さまは」
璃子はそこで一度言葉を切る。天満は「ああ」と頷いて、
「あいつは死んだからな。……右京さんと一緒に」
その事実を口にするだけで、胸が張り裂けそうになる。
二十年前の冬。当時十一歳だった次男・永久獅堂は、自ら呪いを生み出して黄泉の国への門を開いた。そして、それに巻き込まれた右京もろとも、現世に帰ってくることは二度となかった。
「右京さんは強い。だから簡単に死んだりしない。彼女は自ら望んでこの道を選んだんじゃないかって、俺は思ってる」
「自ら死を選んだということですか?」
「いや。死のうとしたんじゃない。きっと何か別の目的があったんだ。あの人は、優しい人だから」
当時のことを思い出す度に、天満はいつも考える。
彼女は本当に『未来視』の力を持っていたのかどうか。
もしも彼女が本当にその力を持っていたのなら、自分の死も、そしてそれによって齎される未来も、全て知っていたはずである。
「きっとこうすることが、最善の未来だったんだ。右京さんにとって」
彼女は無駄死にしたのではない。何か目的があって、あえてこの道を選んだのだ——と、そう考えることで、天満は己の心を納得させてきた。
そうしていなければ、すぐにでも彼女の後を追いたくなってしまう。
ずっと、彼女と一緒にいたかった。彼女が死ぬときは、自分も一緒に死にたいと思っていた。
「獅堂の奴が羨ましいよ。あいつは、最期まで右京さんと一緒にいたんだからな」