「たしかに人間は嫌いだ。幼少期の記憶もあるから尚更な。だが、俺はあのとき素直になれなかったことをずっと後悔していた。だから、もし初恋の少女に巡り合うことができたのなら、今度は絶対に離さないと誓っていたんだ」


紫雨が力強く、そして愛おしそうに千世を抱きしめる。

その話を聞いて、千世も自然と紫雨の背中に手をまわしていた。


紫雨の話を聞いて、ようやく紫雨と心を通わせられたような気がしたのだ。


相手は人間嫌いの鬼のはずが、離縁手前で突然の溺愛。

千世も正彦に捨てられたから紫雨のところへきたということもあり、根底に張り付いたわだかまりは残ったままだった。


それが、今――すべてが浄化されたのだった。


紫雨が菊丸から守ってくれた姿は、幼少期の紫雨の姿と重なった。

千世の初恋である、あの幼き紫雨。