3人に礼を言って。

しかし、最後まで名乗ることはなかった。


紫雨からこの話を聞かされ、そういえばそんなこともあったと千世は今になって思い出した。

まさかあのときの少年が鬼で、それが紫雨だったとは夢にも思わなかった。


紫雨も『千世』という名前を聞いても、あのときの少女だとは気づかなかった。

だが、鬼の女に千世が傷つけられて血を流したときに、頭の中を電流が駆け巡るようにして昔の記憶が呼び起こされた。


あのときの血の匂いだけは覚えていた。

それで、紫雨の中で繋がったのだった。


「一瞬信じられなかったが、俺が血の匂いを忘れるはずないからな。すぐに目の前にいる女が俺の初恋だということに気づいた」


紫雨が、屋敷から出ていこうとした千世を突然呼び止め留まらせたのは、ずっと探していた初恋の相手を見つけてしまったから。