千世がそうつぶやくと紫雨がそっと手を伸ばし、ぎゅっと抱きしめた。


「簡単なことだ。それは、お前が俺の初恋の相手だからだ」

「…初恋?ですが、わたしと紫雨様がお会いしたのは、離縁を申し出にきたあのときで――」

「いや。それよりもずっとずっと前に一度会っている」


きょとんとする千世。

紫雨はそんな千世に語ったのだった。



――それは、今から14年も前にさかのぼる。


5歳の千世は、茂みのそばで傷ついて倒れている少年を見つけた。

それが、当時8歳の紫雨だった。


だれかに蹴られ殴られたのか、ボロボロになって意識を失っていた。

幼い陽の鬼は、鬼という存在を忌み嫌う人間から突発的に暴力の対象になることはめずらしくはなかった。


紫雨が鬼だとは気づかず、千世は家へと連れ帰った。