それにしては痛みがない。


はっとして顔を上げると、そこには千世を見下ろす紫雨の顔があった。


「…大丈夫か、千世」

「は…はい」


千世は一瞬なにが起こったのかよくわからなかったが、どうやら紫雨が千世を庇うようにして腕の中へ包み込み、氷の刃から避けたのだった。

紫雨が助けに入らなければ、今ごろ千世の体は蜂の巣になっていたことだろう。


ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、千世は顔が青ざめる。


「…紫雨様、その腕…!」


なんと紫雨の右腕の着物がパックリと割れ、そこから血がにじみ出ていたのだ。

千世は無傷だったが、紫雨は腕を負傷していた。


「心配するな。こんなもの、たいしたことはない」

「強がってたら死にますよ?ボクの妖術には毒がたっぷりと仕込まれていますから」


戦況が逆転し、余裕の笑みを浮かべる菊丸。