しかし、さすがは強大な妖力を持つ紫雨。


陰の鬼の菊丸を押しているのが千世の目から見てもわかった。


菊丸の顔には、『こんなはずじゃないのに』とでも言いたそうな焦りの表情がうかがえる。


次の瞬間、菊丸の瞳がギロリと千世にほうへと向けられた。

その恐ろしさに、千世は息をすることもできない。


「こうなったら…。千世さん、先に死んでください!」


菊丸が妖術で作り出した無数の鋭い氷の刃が、千世目掛けて一斉に飛んでくる。

それはとても逃げてどうにかなるものでもなく、避けることすら不可能。


転んだ千世は、自分に向けられた氷の刃の切っ先をただただ目を見開いて見つめることしかできなかった。


――そのとき!


横からなにかが突進してきたかと思ったら、その勢いで地面の上を転がる千世。