窓を向きながら、キセルを吸っている貞夫の後ろ姿があった。


「父さん。千世のこと…調べてくれましたか?」

「ああ、調べたぞ。隅々までな」

「じゃあ、これで僕たちの婚約を――」

「単刀直入に言う。今すぐ別れなさい」


思ってもみなかった貞夫のその言葉に、正彦と千世は思わず言葉を失う。


「…なっ!なにを言い出すんです、父さん!」

「この娘の素性を調べた結果、我が不破家の嫁として迎え入れるわけにはいかないと判断した」

「父さん、失礼じゃないか!千世になにがあるっていうんですか…!たしかに、両親を亡くして身寄りはないけれど――」

「問題はそこじゃない」


貞夫は、キセルから吸った煙をふうっと吐く。

そして、鋭い瞳を千世に向ける。


「調べてわかったことだが…。大庭千世――、お前はすでに別の男と婚姻関係にあるだろう?」