「安心してください。千世さんもいただきますから」

「…やっ……」

「初めて会ったときから、おいしそうだなと思っていたんです。でも、嫌な妖気が追ってくる気配がずっとしてて、味見したくてもできなくて」


菊丸は、千世を助けたときから狙っていた。

それができなかったのは、近づいてくる紫雨の妖気を察知していたからだった。


菊丸は、そのあたりにいる陰の鬼よりも妖力はあるようで、火をも恐れぬ特殊な鬼であった。

だからあのとき、焚き火をしていても平然としていたのだった。


「まさか、あの叢雲紫雨の奥さんだったんですね。どおりで、しばらくの間は近づけなかったわけだ」


紫雨が千世に持たせたお守りには、特定の陰の鬼を寄せつけない効果が秘められていた。

それがあり、菊丸は千世に近づくことができなかった。