「ここは…」


紫雨とにぎやかな街に出かけていたはずが、なぜか千世は薄暗い洞窟の中にいた。

どうしてこんなところにと思いつつも、それまでのことを思い返してみる。


紫雨を待っている間に菊丸と会った。

そこまでは覚えているが、そのあとが思い出せない。


それに、なんだか生臭い臭いもする。


暗闇に目が慣れていない千世は、自分の周りだけぼんやりと見える程度の視界だった。


そのとき、ぽっと空中に火が灯る。

驚いた千世はビクッと体を震わせる。


「そんなにこわがることはないですよ」


そんな声が聞こえて顔を向けると、宙に浮かぶ火の玉の灯りにだれかの姿が映った。


「…菊丸さん!」


それは、不気味なくらいにんまりと微笑む菊丸だった。


「菊丸さん、あの…ここは……」

「ここは、ボクの住処です」