「いや、今日そのお礼をしてもらいます」

「…え?」


千世がきょとんとして見上げると、その千世を瞳に捉える菊丸。

菊丸の目は、まるで血で染めたかのような紅色へと変色。


それを見た千世の瞳からは光が消え、ふっと体の力が抜け意識を失う。

菊丸は、崩れ落ちそうになった千世の体を抱き寄せた。


「千世さん。お礼は、あなたの身です」


菊丸は千世を抱えると、煙のようになってその場から姿を消した。



「千世、待たせて悪かった」


戻ってきた紫雨だが、そこに千世の姿はなかった。


「…千世?」


辺りを見回す紫雨。


――しかし、そのころ千世は菊丸の腕の中だった。



* * *



ひんやりとした空気。

水がしたたる音。


硬く冷たい感触と肌寒さに身震いして、千世はゆっくりと目を覚ます。