ああ言われていたのに忘れてしまった。

あとで、紫雨に謝っておかなければ。


そんなことを考えていると――。


「…やぁ、こんにちはっ」


声が聞こえて千世が顔を上げると、そこにいたのは灰茶色の短髪に笑顔が印象的な好青年。


「菊丸さん…!」


再会したうれしさのあまり、千世は菊丸に駆け寄る。


「まさか、こんなところでお会いできるなんて…!お仕事でこの街に?」

「はい。ここには、他では見られないようなめずらしいものがたくさん売っているので」


菊丸はぶれない笑みを見せる。


「そういえば、千世さん。この前の言葉、…覚えていますか?」

「この前?」

「“またいつか会うことがあったら、ぜひとも礼を”と」

「もちろんです!…ですが、今は連れといっしょでして。すぐに戻ってくると思いますので、今日のところは――」