広い街をあっちへ行ったり、こっちへ行ったり。


紫雨に寄り添って歩いていた千世だが、人酔いしてしまい頭を抱えだす。


「…千世?大丈夫か…?」

「…はい。少し休めば問題ありません…」


千世は紫雨に連れられ、人混みから外れた建物のそばへやってきた。


「どこかで飲み物を買ってくる。少しの間、ここで待っていてくれるか?」

「はい…、わたしなら大丈夫です」


紫雨は心配そうに千世のことを見つめていたが、意を決して人混みの中へと消えていった。


紫雨が帰ってくるまでの間、千世は階段に座り込む。

――そこで、初めて気づいた。


普段と違う着物であるから、いつもの着物の帯に挟んでいた“あれ”を持ってきていないことに。


それは、紫雨から渡されたお守り。


『これを肌見放さず持っているんだ、絶対に』